「こんな花が咲きました」のコーナーへようこそ

このコーナーは、月例会に開花が間に合わなかった、花命短くてすぐに枯れてしまった、大きすぎて搬入ができなかった、あるいは花が多すぎて持ちきれなかった等の事情で、みなさんに見ていただくチャンスを逃してしまった花々の、再デビュー舞台です。
Liparis elliptica(和名:コゴメキノエラン)

この報告は「こんな花が咲きました」ではなく「こんな花を見ました」、すなわち、自生地の観察報告である。
先日、奄美大島へ仕事に出かけた際、半日ばかり時間が出来たので一年ぶりに湯湾岳の原生林に出かけてみた。
ねらいは、この時期(12月下旬)に開花するコゴメキノエランの観察である。

コゴメキノエラン その1
バルブ径2cm、花茎12cm、葉長10cm、花は3mm
Liparis elliptica=コゴメキノエランは、インド、スリランカ、インドネシア、タイを経て台湾に至る弧状の地域に広く分布する着生蘭である。
「Orchids of Java:J.B.Comber」によれば「ジャワ島では標高1370m〜2500mの雲霧林に広く分布する」とされており 、写真も記載されている。

我が国では湯湾岳(694m)の特定の場所だけに生育する希少な種であり(世界的分布の北限)、環境庁のレッドデータブックでは絶滅危惧種の指定を受けていたが、近年、園芸目的の乱獲がたたり、個体数が激減したことから(自生地では100株程度と言われている)、今年、「国内希少野生動植物」の指定を受け採取が法律で禁止されてしまった。
そんなわけで、自生地の位置、環境について詳しくここで公表するわけにいかないが、湯湾岳の原生林の一画にその自生地はある。



樹齢200年を越えるイタジイ、イジュ、イスノキなどが生い茂る湯湾岳の原生林

我が国には雲霧林はないとされているが、奄美大島の最高峰である湯湾岳は、
雲霧林ではないが朝晩深い霧がかかり、海からの高湿度な風が林内を吹き抜ける特殊な環境にあり、本種以外にも、チケイラン、オサラン、マメヅタラン、カシノキラン、
ナゴラン、キバナノセッコク等の着生蘭をたくさん見ることが出来る。また、このような原生林には、山の守り神である猛毒蛇「ハブ」も、大きなものが生息しており、ランの観察をしようと樹上ばかり見上げていると足下がおろそかになり、命が危ない。
原生林の内部 樹木には巨大な
オオタニワタリがいくつも着生している
チケイラン:コゴメキノエランよりも暗い環境
を好む。株姿はよく似ているが単葉であり、
バルブに稜がない。
    ナゴラン(1998年5月撮影) 大物ハブ 足下にご注意! 攻撃姿勢を
とる体長180cmの大物ハブ(1997年撮影)
以前、この自生地では、割合簡単に株を見ることが出来たが、近年、個体数が減少しており、 見つかりにくい。
足下の恐怖も忘れて、双眼鏡で樹上を見上げること10数分、 いい加減首が痛くなってきた頃、幸いにもまとまって数本の木に着生しているのがみつかった。
    コゴメキノエラン その2     コゴメキノエラン その3
写真のとおり、しなやかに垂れ下がる花茎にたくさんの蕾がついていたが、残念ながら、どれも開花にはいま少し時間がかかりそうな状態であった。
絶滅一歩手間の希少な種に出会えただけでもよしとせねばなるまい。

仕事の合間の観察だったので、小型のデジカメしか持参しておらず、出来るだけ鮮明な写真を撮るためにはレンズの焦点距離を足で稼がねばならない。
株のついた隣の木に登るのがその唯一の手段なので、近頃めっきり衰えた腕力をふりしぼり、ようやく一枚ものにすることが出来た。一番はじめのクローズアップがその1枚である。
あとの二枚は、デジカメの解像度をめいっぱい上げ、6倍光学ズーム+デジタルズームで 撮影したものである。
なお、写真は2000年12月15日に撮影したものである(大物ハブ、ナゴランを除く)。
もう少し奄美大島のバーチャル・ジャングルトレッキングを楽しみたい方は
http://www.edit.ne.jp/~fkoichi/indexx.htm

ここの Guest Room(寄贈画像) : Native orchids in Amami へ飛んでみて下 さい。
                                     文・写真:三宅八郎
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