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記事の夏枯れ対策として始めたこの企画でしたが、イベントが目白押しで記事が足りることが多く、随分間があいてしまいました。その間、個人的にも金沢に転勤となり、環境も大きく変わりました。ここで最後に何とか一文書いて、締めくくっておきたいと思います。
5月末から6月始め、田中先生によるミャンマーランツアーが行われ、蘭友会のメンバーも多数参加されました。私のネタなんてぶっ飛んでしまうような自生地で、皆さん自生ランを堪能されたことでしょう。目の前に次々と現れるランの数々、その出会いの感動はいかがだったでしょうか。ああ、私も行きたかった。
金沢に来て5ヶ月、あちこち歩き回れどもすぐにいろいろ見つかるものでもありません。雪国ということもあってか、ラン密度が低いような気もします。でも東京にないものとしてコケイラン(Oreorchis
patens)がありました。ちょうどヒラタアブが訪花しているところで、背中に花粉塊がくっついていました。ちょっとうれしかった瞬間です。
ヒラタアブといえば、昨年はカキラン(Epipactis thunbergii)で花粉塊をつけているところに出会っています。ウチョウラン(Poneorchis
graminifolia)にも来たし、ランに限らず見かけます。いろいろな花でポリネーターとして活躍しているのでしょう。ウチョウランではクロアゲハが訪花という出会いもありました。自生ランだけでなく、そのポリネーターに出会う、もっともときめく時間です。でもこれらを見ても、これでないとだめといったランと昆虫の固有の関係性は見えてきませんでした。 |
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ヒラタアブの訪花したコケイラン(左)とカキラン(右)
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ランは、美しく多様で複雑な、不思議の花として多くの人々を魅了してきました。形、色、香り、どうやってこんな花ができたのか、時にその進化の妙に神秘性すら感じてしまいます。ポリネーターとの共進化を語られることが多いのですが、現場で何が起きてきたのか、私が自生地にこだわる理由です。
ところが、自生地に行ってもなかなかポリネーターに出会えるものではありません。ラン自体を見つける困難さもあります。今までいろいろ歩き回ってきましたが、不思議さは増すばかりです。ウチョウランの100年前の大群落は想像できても、タシロラン(Epipogium
roseum)がどうやって進化してきたのか、そのイメージはわいてきません。 |
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クロアゲハの訪花したウチョウラン
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雷雨後、光条に照らされたタシロラン
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先日東京を訪問したおり、猛烈な雷雨がありました。雨も上がり涼しくなった神宮の森を歩いていると、晴れ間がのぞいてきました。樹冠の間から差し込む光は水蒸気を射透かす幾本もの光条となり、神の場の感を呈しました。そんな光条が林床のタシロランを照らし、今まさに現れたと思わせる演出でした。
生き物は不思議に満ちています。ランはそのひとつの象徴でしょう。不思議さを感じなくなった時が終わりです。秘すれば花なり、本来の意味とは違うかも知れませんが、ランに最もふさわしい言葉ではないでしょうか。
6回にわたって、自生地めぐりの駄文を書いてきました。お付き合い下さった皆さんに感謝するとともに、ちょっと違ったランの楽しみ方を理解していただけたならば幸いです。 |
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