Angraecum eichlerianum
Angraecum eichlerianum

アングレカム・エイクレリアヌムと英語風に読む人と、「アイヒレリアヌム」とドイツ語ふうに読む人がいる。
種の発見・分析に関するする歴史的な説明は文献にないが、種名の後にKraenzlin(aeはaウムラウトである)というドイツ語表記の命名者名が付いているのを見ると、ドイツ語ふうに「アイヒレリアヌム」という読みの方がしっくりくるようにも思われる。

Angraecum eichlerianumは、西アフリカ赤道直下、ギニア湾を囲む国々の深い熱帯雨林に自生する。アングレカムといえば、アフリカ大陸よりもマダガスカルが有名であるが、この種は、マダガスカルには分布していない。

分布地の環境については、赤道付近の熱帯雨林と記されているだけで、標高、温度変化、湿度、等の詳しい情報はない。もっとも、自生地のある、ガボン、アンゴラ、ナイジェリア、ザイール等の国々は、近年、内戦と慢性的な飢餓状態にあり、学術調査も難しい状況にある。


Angraecum eichlerianum(栽培、撮影:三宅八郎)

花は、大きさ8cm、葉の付け根の反対側の茎から直接伸びた短い花茎にひとつずつ花を付ける。 株は、バニラのようにひたすら長く伸び、交互に10cm〜15cmほどの葉を付ける。 花色にバリエーションはなく、すべて、写真のようなタイプである。

自生状態では、バニラと同様、喬木の幹に匍匐するように生育しており、茎の長さは5mに及ぶという。 ほとんど同じような株姿・花を持つ種である、Ang.infundibulare は11m以上にもなると言われている。

上記のように、自生地からの輸入はほとんど不可能な状態にあるが、株自体は我が国のあちこちの蘭園で売られている。
だいたい、どこの蘭園でも、アングレカムの置いてある棚は、蘭園の一番目立たないような、ほとんど忘れ去られたようなところにある。なかでも、この株は茎が少し扁平なので、グニャグニャとだらしなく背が高くなり(1m以上になる)、やたらに茎のあちこちから根を吹きまくるので始末が悪く、 整然と並んでいることがほとんどない。

ところが、12月始めから年末にかけて開花すると、その評価は大きく変わるところとなる。 香りである。
ヤマユリとジャスミンを混ぜたような、爽やかなで清潔な香りを一晩中発し続け、夜明けには、それに甘み加わった残り香がただようのである。 ただし、日が昇ると同時に、その香りは、ふっと、消えてしまい、夕暮れどきまでは、ご覧のような目立たない花を、だらしない茎にぶら下げたままである。
したがって、蘭園でも蘭展でもこの香りを体験することは非常に難しく、気まぐれに買ったか、あるいは蘭友から押しつけられたかして、とにかく、一年間、あちこちグニャグニャするのを矯正し、まめに保湿条件をコントロールし続けた、まじめな栽培者(一説には変わり者ともいう)だけにもたらされる特権なのである。

この香りの主成分となる化学物質は、linalool、methyl benzoate、methyl salicylate、これに、なんとオナラの臭の素であるindole が加わっている。ジャスミン臭の素となる化学成分は、epi-jasmonate という物質であるが、この種には含まれない(カンランの香りの主成分)。

この時期に開花するアングレカムとしては、Ang.distichum、Ang.leonis、Ang.
elephantinum 、Ang.Viglena(Ang.magdalenae X Ang.viguieri)、がある。 いずれも、
以下の写真のように形態が多様かつ個性的であり、どこかヤマユリを思わせる香りを持った白い花が咲く。

年末、多忙で、昼間、花を愛でる時間がないとき、これら、夕刻から夜間に香りを発するアングレカムに、仕事の疲れを癒された経験を持つ蘭友諸子も多いことと思う。

栽培は、少し大きめの素焼き鉢(4号から5号)に、柱状にしたオスマンダか(ヘゴは保湿が難しい)ゴルフクラブのシャフトカバーにバークをつめたものを立てて支柱とし、中粒のバークで植え付けて、通年、18度以上の温度で管理する。
高温性の種であるが、32度以上の温度が続くと弱るので注意が必要である。
湿度は通年、60%以上を保つ必要があり、支柱の水分が切れないように管理する必要がある。照度はパフィオ程度がよい。

参考文献

1. African Orchids in the Wild and in Cultivation : Isobyl and Eric la Croix
2. The Scent of Orchids : Roman Kaiser
3. Manual of Orchids : Joyce stewart         (三宅八郎・記)


Angraecum distichum



Angraecum leonis



Angraecum elephantium(栽培、撮影:三宅八郎)



Angraecum Viglena(Ang.magdalenae×Ang.viguieri)(栽培、撮影:三宅八郎)

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