Laelia harpophylla
(オレンジ色の花の魅力)

Laelia harpophylla

レリア・ハルポフィラは、新年の松坂屋蘭展から始まる「蘭展シーズン」の終盤、ドーム蘭展が終わる頃に星形の鮮やかなオレンジ色の花を付ける。
このオレンジ色は、岩場のテラスで迎えるビバーク明けの日の出にも似た、爽やかで希望に満ちたオレンジ色。同じオレンジ色でも、夕焼けの茜色とはひと味違う明るさがある。
花を見ると、ロックレリアのような印象を受けるが、この種は、ブラジルのミナスジェライス州とエスピリトサント州の境界をなす山域に広がる多雨林の樹上に生育するレリアで、バルブはロックレリアのようなとっくり型ではなく、直径5mm、長さ20cmほどの細長い棒状のバルブである。
そのような細長いバルブの先に長さ25cm、幅2cmの剣葉をつけ、完全に成長すると全長45cmあまりの高さの株に成長する。
葉の付け根から生じる長い花茎に、NS 5cm〜7cmの星形の花を6輪から8輪付ける。写真の株は、2年前、白石洋蘭園で一作の実生株を入手したもので、ようやく一花茎2輪の花を上げるようになったところである。



Laelia harpophylla (栽培・撮影:三宅八郎)

自生地は、前にも書いたように、ブラジル、リオデジャネイロ北部のミナスジェライス州とエスピリトサント州にまたがる山地の標高500m〜900mの涼しい多雨林地帯であり、花色から想像するような、強烈な光線も規則正しい休眠期も必用としない。むしろ、かなり遮光され、むっちりと空中湿度に満ちたジャングル特有の環境を好むようだ。

 鮮烈なオレンジ色の花というと、着生種ではソフロニティス・コクシネア(Sophronitis coccinea)、エンシクリア・ヴィッテリナ(Encyclia vitellina)、コンパレティア・スペシオサ(Comparettia speciosa)、レリア・シナバリナ(Laelia cinnabarina)、レリア・ミレリ(Laelia milleri)等、地性種ではフラグミペディウム・ベッセア(Phragmipedium beseae)、ディサ・ユニフローラ(Disa uniflora)等を魅力的な花として思い浮かべるが、いずれも一癖あり、低温・高湿度でかつ通気に気を使い、根を蒸らさないようい大切に扱うなど、初心者にとっては難題となる栽培環境の維持に気後れし、「オレンジ色の花が咲く蘭は、管理がやっかい」というイメージが定着している。
しかし、レリア・ハルポフィラは、上記のような環境に自生しているので、立派な温室が無くても栽培しやすく、都心のマンションベランダでも、十分に鮮やかなオレンジ色の花を咲かせて楽しむことができる。

栽培は、春咲きカトレアに準じた管理をするが(温度12度〜32度、50%遮光)、根が細く痛みやすいので、コンポストはバークやコルクチップのような通気性に富んだものが向いている。

レリア・ハルポフィラ以外の、オレンジ色花が咲く栽培しやすい種としては、カトレア・オーランティアカ(Cattleya aurantiaca)、レリア・カウツキヤナ(Laelia kautskyana)等があげられる。レリア・カウツキヤナは、ハルポフィラとほとんど同じ環境に生育しており、株姿もよく似ていて、ハルポフィラとほとんど同じ環境で栽培できる。花は、ちょうど桜が開花する頃、ハルポフィラから2週間〜1ヶ月遅れて開花する。

カウツキヤナの花は、NS 5cm 。ハルポフィラに比べて丸みがあり平開するので、全体的に顔立ちがのっぺりした印象である。端的に言えば、ハルポフィラは野性味のあるキリリとした顔立ち、カウツキヤナはお公家様タイプの優しい顔立ち。ハドロレリアのレリア・ジョンゲアナ(Laelia jongheana) とレリア・プミラ(Laelia pumila)の顔立ちの違いとよく似たところがある。



Laelia kautskyana(栽培、撮影:三宅八郎)

ところで、オレンジ色の花には、ある共通した性質がある。オレンジ色の花が咲く種を栽培した経験のある方はご存じであると思うが、その色の鮮やかさ故か、残念ながらほとんどの種に香りがないのである。これは、オレンジ色が野外にあっては非常に目立つ色彩であり、ポリネーターに対しては香りでアピールする必要がないということに起因しているのかも知れない。
                                      記:三宅八郎
参考文献
蘭の王国・ブラジル大紀行(草土出版)
The Cattleyas and Their Relatives Vol.2 (Carl Withner)
Orchids of Brazil (Jim & Barbara Mcqueen)

ページトップへ

原種解説の花過去ページへ

トップページへ