Phaius tankervilleae
カクチョウラン、学名・ファイウス・タンケルヴィレアは、種子島・屋久島以南に分布する我が国最大サイズの蘭である。
自生地のひとつ奄美大島では、端午の節句をはさんで4月下旬から5月中旬にかけて開花期を迎え、花が終わると梅雨入りになる。
Phaius属は、世界でおよそ50種ほどが知られているが、我が国では、tankervilleaeのほかにflavus(ガンゼキラン)とmishmensis(ヒメカクラン)が自生している。flavus(ガンゼキラン)は屋久島で、mishmensis(ヒメカクラン)は沖縄本島でよく見られる種であり、両方ともカクチョウランより一回り小さい株姿をしており、カクチョウランよりも日陰の環境を好む。。
Phaius tankervilleae(奄美大島にて)
カクチョウランの分布域は、我が国ばかりでなく、東南アジアから東太平洋弧に沿って、ジャワ、パプアニューギニア、オーストラリアにまで及ぶ。
葉巾30cm、葉長1m、花茎は1.5mにもなり、バルブは大型のサトイモなみで、とにかく大きな植物体であり、とても我が国自生する蘭とは思えない図体をしている。
したがって、最近、あちこちの洋蘭展に出品されるようになり、東京ドームで開催される世界蘭展でも、今年、アルバ個体のPhaius tankervilleae
var..albus 'White Memory'
(桑原孝一:蘭友会)がセンターブースに上がった。
下の写真は、展示準備中の株であるが、周囲の人と比べると、その大きさがわかると思う。
展示準備中のPhaius tankervilleae var..albus 'White Memory'
カクチョウランの花は、バルブの付け根から立ち上がる1.5mほどの花茎の上に複数個かたまって下向に咲く。
花は、正面から見るとリップの形状を単純にしたレリアのような形をしており、花の表側は、赤褐色(リップの先は赤紫色)、裏側(外側)は真っ白である。ちなみに、斜め横から見るとツルが飛んでいるように見える(リップが鶴の首)ことから、我が国では鶴頂蘭と呼ばれるようになった。
海外の文献によれば、花はNS10cm〜12.5cm、1.5m〜2mの長い花茎の上に10〜20の花を付けるとされているが、我が国の自生池では一回り小柄であり、NS8cm〜10cmの花を5〜10数個の付ける。
トップの写真は、奄美大島の宇検村河内川の自生地で撮影したもので、全般にくすんだ色の花が多い中にあって、比較的鮮やかな色合いの個体であり、NSは10cmあまりあった。
この種の発見は18世紀末に遡るようであるが、Phaius tankervilleae としての記載は1956年であり、今風に言えば蘭熱中症の貴族婦人・Emma
Tankerville にちなんで命名された。我が国では、幕末の奄美民族誌・南島雑話(安政?年・名越佐源太著)に、「四月花開、茎長三、四尺、花外白、内朽葉色、形鶴ノ如飛、葉大サ似馬蘭」という記述とスケッチが見られる。
風物誌に記載があると言うことは、当時からよく見られる植物であったということであり、現在でも、奄美大島では名瀬市から南の集落の庭先によく咲いているのを見かける。
平凡社・南島雑話2より、カクチョウランの記述
自生地では、樹林内で見かけることはほとんど無く、山間部の農耕地や道路ぎわの日当たりよい場所生育しており、湧き水のしたたり落ちるような崖下や道路法面の下部にある堆積土の上や側溝の中に群生していることが多く、新鮮な水が切れ目無く供給されている日当たりの良い場所を好む。
下の自生環境の写真でも、葉が黄色く焼けているのがわかると思う。
したがって、栽培にあたっても、水切れさせないように注意し、日当たりの良い場所で管理する必要があり、日本産の蘭とはいえ、冬季は10度以下にしてはいけない。
道路際にススキと一緒に自生するカクチョウラン
この種の交配は比較的新しく、1986年以後、近縁のシンビジュウムやカランテとの交配が 登録されている。
RHSのデータベースには、本種との代表的な交配種として、以下の4種の記載があったが、残念ながら、蘭友会の画像データベースには写真の登録がなかった。
もし、写真を所有している蘭友諸兄がおられたら、ご一報いただきたい。
Phaius Joan Hart
SEED PARENT:Phaius tankervilleae
POLLEN PARENT:Phaius flavus
Phaius Bina Devi Pradhan
SEED PARENT:Phaius woodfordii
POLLEN PARENT:Phaius tankervilleae
Phaiocymbidium Yellow Bird
SEED PARENT:Phaius tankervilleae
POLLEN PARENT:Cym. Golden Elf
Phaiocalanthe Centuari
SEED PARENT:Phaius tankervilleae
POLLEN PARENT:Cal. vestita
(記、写真:三宅八郎)
参考文献
Manual of Orchids(Joice Stewart,Mark Griffiths)
Orchids of Java (J.B.Comber)
Wild Orchids of Thailand(Nantiya Vaddhanaphuti)
野生ラン(家の光協会)
南島雑話(平凡社) |