ステリス属(Gen. Stelis)
ネキシポウス亜属(subgen. Nexipous)の3種について

ステリス属は中南米に広く分布し、600種前後がこれまでに記載されている比較的大きな属の 一つである。
Masdevallia, Pleurothallisと同じプレウロタリス族(Pleurothallidinae)に属し、学名のStelisはラテン語で「ヤドリギ」を意味し、着生であることに由来している。
草姿は、Pleurothallisとほぼ同じで、根茎は短く、2次茎は直立し2節からなり、先端に革質の葉を1枚だけ生じ、しばしば区別が困難である。
 花は、がく片だけが発達し花弁、唇弁、ずい柱は極端に矮小化し、肉眼で細部を確認することは不可能なほど微少である。花弁はほとんどの場合長さ2mm以下である。
一方がく片はよく発達し、基本的にはそれぞれが独立し、花全体としては三角形をなす種が大半である。
しかし他の属と同様に、基本とことなる花形の種も多く、lateral sepalsが途中まであるいは先端まで合着する花(subgen. Humboldtia)や、2枚の側がく片が背がく片と先端近くまで合着し、片側だけにがく片が位置する花(subgen. Nexipous)等もある。

花が三角形をした典型的なStelisは皆さんもよくご存じでしょうから、ここでは、StelisらしくないStelisの代表として前述のNexipous亜属の3種を紹介します。ちなみに亜属名のNexipousは、がく片が一方に集まっている事に由来している。ただし、ここで述べるNexipous亜属の特徴は、これまでのGaray(1979)の亜属の概念とは異なり、正式には未発表であるが筆者独自の考えである事を予めことわっておきたい。



描画 斎藤 亀三 氏


本亜属の特徴としては、次の点が上げられる。
1. 2次茎は太くて長く、上部はやや扁平となる。
2. 葉は長楕円形で厚く、硬い革質
3. 側がく片は背がく片と中部以上まで合着するが、側がく片同士は基部だけがわずかに合着し、全体としては平開する。
4. 花弁は扇形、先端に向かって徐々に薄くなり、切形とはならない。
5. 唇弁は種ごとに異なり、広卵形で薄くて大きなものから倒卵形で肉質ものまであり変化に富む。
6.種の花は、空中湿度の変化によって開閉運動をすることはなく、一度開花した花はずっと開き続ける。

1. Stelis nexipous Garay (エクアドル)1958
Nexipous亜属の基準種、背がく片は長さ約1cm、外側は平滑で光沢があるが、内側表面には短毛が疎にあり、全体くすんだ濃紫褐色を帯びる。
側がく片は背がく片より短く、先端部はやや外側に曲がる。ほとんどの場合背がく片と同じ色だが、外側の半分ないし3分の1が白色―緑色となることもある。
基部に位置する花弁、唇弁、ずい柱は非常に小さく、左右の花弁の端から端までの径は1.5mm。花弁は扇形、中央部が最も肥厚し、先端に向かって徐々に薄くなり、基部1/3は透明、残りの部分は小豆色で、表面には微少突起がある。唇弁は尖った倒卵形、全体的に肥厚するが中央部は浅く窪む。前面片縁部の表面はザラザラし濃暗紫色、中央の浅く窪んだ部分は光沢のある緑色で粘性がある。
ずい柱は中央部が最も太く、反曲する両側の柱頭部は先端に向かって狭くなる。花序は長く伸び、長さ10−15cmないしそれ以上に達し、通常10花前後を生じる。花は背がく片が下向きになるように開花する。



Stelis nexipous 写真提供 斎藤 亀三 氏


2. Stelis aperta Garay(エクアドル)1979
この種もガラヤ博士によって記載されたが、原記載以後の報告はなかった。
草姿はnexipousとほとんど同じ、花軸は花に比して太く、苞葉は短く先端まで花軸に密着する。花は平開するが、下向きになり、薄い暗褐色、内外両表面とも平滑で光沢がある。
側がく片は背がく片に比し幅広い。側がく片同士は基部だけが合着する。がく片の脈は3本。
花弁は黄色、基本的には扇形であるが、先端1/2は急に広くなり、中央部が最も厚く、先端に向かって徐々に薄くなり、表面は平滑、左右の花弁の端から端までの径は1.6−1.8mm。唇弁は花弁と平行ではなく,前方へ突出し、倒卵形、基部中央部と先端近くが肥厚し、中央部が深く窪み、ずい柱と接する基部には微突起が密生する。
花形と唇弁の形態に特徴がある。



Stelis aperta 写真提供 斎藤 亀三 氏


3. Stelis genychila Garay(コロンビア)1956
ガラヤ博士は、Nexipous亜属ではなくStelis亜属に分類している。しかし草姿は前述の2種とほとんど差異が無く、葉は厚い革質で長円形、2次茎上部はやや扁平となる。
花は平開し、背がく片の両側に側がく片が合着し、側がく片は基部だけがわずかに合着する。がく片は茶褐色、外側は平滑、内側は背がく片の内側全面と側がく片の上側周辺部だけに微突起があり、その他は平滑。花弁はがく片に比して大きく、淡黄色、基部はずい柱と平行であるが途中から反り返り、先端に向かって徐々に薄くなる。
ずい柱の柱頭部は完全に左右に2分されずつながっている等の特徴がある。
Garay(1070)は、柱頭が2分されず連続する種群を区別し、Apatostelis属としたが本種はどういうわけか、Stelis属Stelis亜属に分類されている。  Apatostelis亜属に分類された種のほとんどは、草姿も花も小さい種が多く、2分されていた柱頭がずい柱の矮小化に伴い2次的に単一の柱頭に戻ったと考えられる。




Stelis genychila 写真提供 斎藤 亀三 氏

投稿者:蘭友会・相談役・理学博士 斎藤 亀三 氏

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