不遇のPaph.ang-thong
Paph.ang-thong

 Brachypetalum亞属にあり、リーフスパン15〜20cm葉幅2〜3cmで肉厚、葉の表面は濃緑色と黄白色の斑模様となり、裏面は黄緑色地に濃紫褐色の斑点が全面密に入る。
全体にコンパクトな株姿。色彩は淡乳白色〜白色地で紫褐色の小点又は筋状斑点が全面に入る。
形はniveumに比べ丸形良型が多く6〜7cm、ステムはやや短く5〜8cm内外。
種名は自生地の島の名前Ang-thong Islandsより付けられたものと思われる。

 かつてang-thongはniveum var. ang-thongとして、多くの株が日本やアメリカ、ヨーロッパにもたらされ、栽培、交配が成されて来た。当時はniveumとbellatulumの自然交雑種であろうと言われていた。 しかし、1977年Fowlieによってgodefroyae x niveumのNatural Hybrid(自然交雑種)である。と正式に 表記された。
 ang-thongはサンダーズリスト上ではx.ang-thongと表記されgodefroyae x niveumのNaturalHybrid(自然交雑種)して扱われている。又、godefroyae x niveumは、交配種名Greyiとして1888年Corningによって命名登録されている。
 しかるに、その子供の交配親名としてはniveumであったり、Greyiであったりで本来のang-thongの名前は リスト上から抹殺された形となっている。

ang-thongはシャム湾に浮ぶ小さな島、Ang-thong Islandsだけの固有種であり、この島からniveumや godefroyaeの自生の報告は無い。しかし、Ang-thongが誕生した頃にはgodefroyae や niveumも近くに 存在し交雑が繰り返され雑種強性により島の環境に適応すべく長い時間をかけて進化を遂げてきたのが現在のNative ang-thongと考えるのが妥当ではないか。素人考えではあるがgodefroyae x niveumの一代交配種Greyiでは無い事だけは確かであろう 。
なぜならGreyi x niveum-=Mystic Isle Greyi x godefroyae = Lalita、Mystic Isle x Greyi = Island Mist となる。少なくともNative ang-thongは種名ang-thongとして栽培し続けたいものである。今、微笑みの海に浮ぶ小島の妖精Paph.ang-thongがいとおうしくてならない。


タイ、マレー半島、自生地全体地図


現地を探索されて作成された4種の分布拡大地図

自生地:シャム湾に浮ぶAng-thong Islandsの一部の小島。
北緯9度30分、東経99度40分付近
石灰岩の崖地で海抜10m〜50mの北〜北東斜面。
岩の上に僅かに体積した腐植土の上


北東の崖地に咲くang-thong 船より撮影 白く点在するのがang-thongの花


北側の崖地に咲くang-thong 海面から7〜8m


山の路端に咲くang-thong


石灰岩のハングした岩陰に咲くang-thong

気候
5月になると南西からのモンスーンが豪雨を伴ってやってくる。
   8月になるとピークに達し11月に入ると 雨量は少なくなる。年間の平均雨量は1880
   ミリに達する。
   11月中旬に入るとアジア大陸からの北東のモンスーンに変わり、乾いた空気と寒さを
   伴い3月の終わり まで続く。
   4月が年間で1番暑く、10月が一番寒い。湿度は年間を通じて高く乾季の夜は地面
   が露で濡れる。
   一日の平均気温は、冬季(乾季)の日中24℃ 夜間16.℃ 夏季(雨期)、日中31℃
   夜間20℃である。


自生地でのang-thongの根の状況、株の大きさに比べ太くて多くの長い根が 岩の割れ目に向かって伸びている。石灰岩の表面はにじみ出た水で覆われている。


niveum 良栽培株 倉持保男氏 培養

栽培
コンポストはミックスコンポストが一般的である。軽石類5、石灰石1、バーク3、
パーライト1 でプラ鉢植えとする。
超硬質鹿沼土や日向石を混ぜておくとコンポストの乾き具合が目で見て分かる。
コンポストは水はけが良く清潔である事。1年後の植替えでコンポストがさらさら状態な
らOK、特にバークについては良く水洗いをし、殺菌消毒をして使う。

温度管理は冬季最低温度15℃〜18℃、日中の温度25℃位で日の出1時間後葉面温度が20℃以上になっていると更に光合成は活発になり良く成長する。
夏季は最高温度を日中35℃、夜間23℃位に抑えたい。
光線は強く、長くをモットーに日当たりの良い環境を与える。真夏期75%、冬季0〜30%、その他の 時期50%遮光が適当。

風は強く、潅水後2〜3時間位で葉の表面が乾くようにする。又、新鮮な風を出来るだけ入れる。 水は乾燥気味に与えるのが無難であるが、より良い成長を促すには水はけ良いコンポストでたっぷり 与える。 水温は6月から10月までは水道水常温(18℃以上)で良いが11月から5月までは水温が低下するので、潅水は20℃位に加温した水を与える。 水温が低いと根の伸長が止まり株に悪影響を及ぼす。

肥料は薄くを基本に濃度を考えて使う。液肥を潅水代りに与える場合、窒素比率で15ppm程度 が適当、ちなみにN,P,K 15,15,15,ならば一万倍、10リットル大型バケツに1g又は1ccで15ppm 窒素分の中で尿素の入っている肥料は小型Paph.には適さない。尿素表記がなく、入っている物が あるので要注意。 有機質固形肥料はバクテリアの繁殖が旺盛で肥料効果は上がるが、コンポストの腐食劣化も進み、乾きを悪くして虫やミミズが発生する事もある。

腐敗病は避けて通れない。健全な環境で腐敗菌に抵抗力のある株作りを心がける。殺虫殺菌、駆除予防はもちろんであるが、抵抗力のある株作りにはカルシュームが有効である。

近縁種の特徴


niveum x ang-thong
ang-thong = Greyi とすると = Mystic Isle

自生が確 認された地図でお判りの様に、この狭い地域にPaph. niveum, Paph. godefroyae, Paph. ang-thong, Paph. leucochilumの4種が混生しており、これらは似通った形質を持っており、識別する特徴を挙げるのは難しい面がある。
又、変種としてそれぞれbar. Albumがある。僅かではあるがこれらの種 にはスタミノードの斑紋がグリーンタイプの物があり貴重である。


Native niveum var. album 選別個体


Native niveum 1


Native niveum 2


Native niveum var. album

Paph. niveum:白地に紫紅色の細点が入る。スタミノードの黄色の目が両側に離れている。ステムは長く15cm〜20cm伸びるのが特出した形質である。又、1茎2花を付ける物が多い。白色の遺伝形質が強い。


godefroyaeオーキッドダオジストより掲載

Paph. godefroyae:N.Sは6.0〜6.5cm、乳白地に紫褐色の小点〜斑点が筋状に入る。リップに小点が入る事で Leucochilumと区別している。ステムは短く5cm前後。Native godefroyaeは近年見る機会が少ない。 唐沢、斎藤 共著「パフェオペディルム」の中でbellatulumとconcolorの自然交雑種であろうと 書かれている。


Native leucochilum 行方豊司氏 培養


Native leucochilum 選別個体


Native leucochilum スタミノードの斑点黄色タイプ


Native leucochilum スタミノードの斑点緑色タイプ


leucochilum x sibling


leucochilum 峯田美智子氏培養 スタミノードの斑点緑色タイプ

Paph. leucochilum:Paph. godefroyae var. leucochilumとして分類されている。 色は淡黄色〜橙黄色で紫褐色の斑点が筋状に大きく入る。花形は一般にふくよかで大きく、色、大きさ、形、共にこのクループでは特出した特徴的な花である。スタミノードの斑紋が緑色に発色する物も多く、色彩的にも印象深い。


Native ang-thong-1


Native ang-thong-2


ang-thong x sibling


ang-thong var.album x sibling 選別個体、菊池 徹氏 培養


ang-thong var.album選別個体

Paph. ang-thong:x.ang-thong(Natural Hybrid)として扱われている。花はniveumに比べふくよかで 良花が多い。色は白地に紫褐色の点、 斑紋が筋状に入る。スタミノードはniveumに比べ黄色の目が中央に寄っている1茎2花を付ける物もある。

まとめ
これら4種を並べて見るとniveumとleucochilumの間にang-thongとgodefroyae
があるように見える。niveumとleucochilumの違いは形態的にも判別出きる。
本来の種はniveumとleucochilumでありang-thongとgodefroyaeはそれらの交雑種と考えるのは早計であろうか。学識者の更なる研究が待たれる。
栽培者としては4種を区別して栽培するのが賢明であろう。
おまけ

Ang-thong Islandsの景色

 最後まで御付き合いありがとう御座いました。このAng-thong Islandsは国立公園になっており、風光明媚な所です。もっとAng-thong Islandsを知りたい人は映画を見る事をお薦めします。
古い方なら一度は見られたでしょう。イギリス映画ジェイムス ボンドの007シリーズ「 ? ? ? ? ? ? ? 」の映画のロケ地がこのAng-thong Islandsだったのです。金髪の美女とサスペンス、横目でPaph. ang-thongの花を探しながら見るなんて、Paph.ファンならきっと満足出来る一時になる事と思います。又、情報機関員として現地に赴くのも良いでしょう。近年はko Samui(サムイ島)までは定期船が出ており観光の島になっております。Ang-thong Islandsにはそこから観光船に乗りクルージングと島の探索が楽しめます。
しかし、決してPaph.に手を出してはいけません。あなたは諜報員にマークされております。 では成功を祈ります。                      (記:上田公生)

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