Cryptopus elatus

92年5月、何か珍しい原種はないだろうかと訪れた白石洋ラン園の温室のベンチで、この
Cryptopus elatusを発見した時には、一瞬信じられない思いであった。
当時は定年退職後まだ日も浅く、月に1〜2度は同ラン園を訪れていたので、こんな珍品を見落としていたことが我ながら不思議に思えた。
早速購入し、加湿器を備えた温室内で栽培。2年ほどで初花を見ることが出来た 。



Cryptopus elatus


残念ながら、この株は2度花を見た後、温室内の湿度低下のため、元気がなくなり、私の温室から姿を消してしまった。
その後、あちこちの蘭園のカタログを調べたり、見学会で蘭園を訪れた際に探したり、東京ドームの世界蘭展であちこちの売店を覗いたり、海外旅行でMadagascarを訪れると言う方に旅行先で探して頂いたりしたが、今日に至るまで販売されている株を発見することができない。
現在では原産地のMascarene諸島でも砂糖黍畑の拡張のため自生地が失われ、絶滅の危機に瀕していると言われる。これまでに蘭友会の例会に出品されたのは一度だけで、
94年5月例会に当時和光市にお住まいであった柳下晃次氏が出品され、人気投票14位に入賞された。

 Cryptopus elatusはMadagascarの東方、MauritiusのMascarene諸島及びReunion島に固有の着生蘭で、標高500〜800mに自生する。
Cryptopus elatusは種名のelatusが "high"(丈が高い)または"lofty"(聳え立つ)を意味するラテン語であることから推測できる様に、Cryptopus属中最も草丈が高くなり、自然環境では2.4mに達することもあると言う。
花は白色で、萎れる直前に黄変する。開花後間もなくは唇弁の基部、蕊柱に近い所に二つの黄色い斑点があり、開花後時間が経つと赤い色に変わる。
ペタルとリップは他の蘭花には見られない独特の(カブトムシの角を想わせる)形をしている。花持ちがよく1ヶ月以上長持ちする。Mascarene諸島では開花は11月〜12月、栽培では5〜6月に開花する。

 Cryptopus属は1824年にLindleyによって確立され、4種を含む。
[C.elatus,C. dissectus,C. paniculatus, C. brachiatus]。
属名はギリシャ語のCryptos="hidden"(隠れた)とpous= "foot"(脚)の2語からなり、
Lindleyの"the filaments and glands of the pollinia are hidden in a pouch."と言う説明を引き合いに出している。

 栽培は中温で15℃以下にならないようにする。上手に栽培するには湿度が高く、数多くの長い根の周囲が常に湿り気があるように管理する事、また風通しを良くする事も重要である。 (松井記)

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