ウチョウラン(Ponerorchis graminifolia)  




Ponerorchis graminifolia


梅雨時、人を寄せ付けない峻険な環境に生育しながら可憐な花を咲かせる蘭である。
日当たりの良い環境を好み、岩場の水気の多い割れ目や窪みに根を下ろし球根を作るので地生蘭であるが、自生地で花を咲かせている状態を見ると着生蘭とも見える。
株の高さは10cm〜20cm、大きなものは30cmあまりになる個体もあるが、多くは15cmほどの草体である。花は、写真に見られるように、ピンク色で10輪ほどの花房になる。我が国では、本州、四国、九州と広く分布し、朝鮮半島南部にも分布している。自生地によるバリエーションがあり、知名度の高い変種としては、千葉県産の変種をアワチドリ、鹿児島県下甑島産の変種をサツマチドリ、佐賀県黒髪山産の変種をクロカミランの3種がよく知られる。香りはない。

園芸種では、各地のバリエーションの交配の他、Ponerorchis(ヒナチドリやニョホウチドリ)との交配種もあり、花の色彩パターンは豊富である。
   

       

園芸種のバリエーション

栽培は、比較的容易であり、春先(菜の花が咲く頃)、砂礫質のコンポストに球根を植え付けてやり、日当たりの良い場所に置いて、初夏にかけて徐々に水やりを多くしてやると、梅雨入り後に開花する。晩秋、球根が完成したら掘り上げ、冬の間、乾かし気味に休眠せてやらないと球根が腐ってしまうので注意が必要である。  

取材記
会の写真仲間である中山君から「奥多摩某所の岩場にウチョウランの群生地があるので写真を撮りに行かないか」誘われていた。某所の岩場(種の保護のため、あえて場所名を秘す)というのをよく聞けば、30数年前、現役クライマーとしてほとんど毎週のようにトレーニングに通っていた岩登りのゲレンデである。 当時、雨が降ろうが雪が降ろうが、とにかく一日中蜘蛛のようにその岩場にへばりついてあちこち登っていたが、いまや絶滅危惧種に指定されているような蘭が群生しているとは全く知らなかった。撮影地へ登るルートの取り付きにも咲いているが、多くのクライマーがこの花のすぐ脇を登って行き、だれも傷つけることをしないし、垂れ下がってくるザイルが株を傷つけることもなかったようである。冒頭の写真はそのようなところで開花していた株である。

 自生地の岩場は高低差60m、その半ばに群生地がある。岩場の基部から双眼鏡で見ると、岩場の中に薄紫色の点々が見えるのですぐわかる。下から見上げるアングルでは、ただの地生蘭にしか見えないので、あえて岩場を上り、群生地を横から見るべく岩登りを敢行する。



奥多摩某所にある高度差60mの垂直な岩場。赤線に沿って登り、青い矢印方向に向かって撮影。
グリーンの円の中が自生地。600mmの望遠レンズで撮影した自生地

6月21日、台風一過の上天気だったので実に爽快であったが、5年ぶりの本格的岩登りには、いささかまいった。つま先立ちが出来るつもりで岩の上に立つと足がつりそうになる、体が固くて岩の曲がりに体が付いていかない、バランスは取っているつもりでも体の柔軟性が追従していない、等などの諸条件は、どうにか克服できる予定だったのだが、ぜんぜんアカン!! どうにかこうにか、20mのクラックを登ってテラスに上がり、セカンドの中山君を引っ張り上げたら、頭フラフラ、喉はカラカラ、足はブルブル、手はヨイヨイ。

      

撮影風景(蘭友会会員:中山博史) 撮影に必要な道具類(ザイル、カラビナ、懸垂下降機、ピトン、ハンマー、双眼鏡、軽い丈夫な三脚)

ザイルに体をあずけ、三脚を据えて400mmレンズをセットして愛用のCanon10Dのスイッチ・オン。ファインダー一杯に満開のウチョウランが見えたときは、すべての苦労を忘れるほどの感激であった。可憐なピンク色の花が風にふわふわ揺れながらオーバーハング上に咲いている様は、とんでもない厳しい環境に適応しているとはとても思えない風情であった。

 

岩場の途中にあるテラスから撮影したウチョウラン。下から見上げた絵にはない、厳しさと爽やかさがある。


岩場の基部には清冽な流れが

ページトップへ

原種解説の花過去ページへ

トップページへ