このランは、フィリピン南部特産のデンドロビウムで、ルソン島南部、ミンドロ島、レイテ島、ミンダナオ島の低標高地域に分布する。種数の多いデンドロビウムの仲間ではフォルモサエ亜属(Formosae)に属しており、フィリピン特産の仲間としては、Den.sanderae(サンデレー)、Den.schuetzei(シュッツェイ)がある。
フォルモサエとはラテン語で「美しい」という意味である。まことに見たとおりの亜属名であり、この亜属のデンドロビウムは花が大きく白弁で、リップの奥(ノドの部分)の色彩のアクセントが各種独特の個性ある美しさとなっている。一方、かっては「Nigrohirsutae」・黒いもじゃもじゃの毛が生えた・という意味の亜属名でも知られていて、この亜属に共通の「バルブや葉に生えた黒い毛」をその特徴として捉えた呼び方であった。同じ仲間のDen.formosumやDen.cruentumには顕著であるが、デアレイでは新芽のシースにわずかに茶色の毛が見られ程度であり、成株には見られない。
バルブは直径1cmほどであるが、大きくなると高さが80cm以上になり、頂部から出た花茎の先にNS5cmほどの花を6〜10個付ける。花は、下の写真に見られるように、ドーサルもペタルも純白であり、白いリップの奥が筋の入った抹茶色になる。分布地による個体差があり、リップの奥が濁った黄緑色になるものや薄茶色の筋が入るものがある。花の形や株姿はサンデレー(Den.sanderae)によく似ており、リップの彩りよってはサンデレーの変種ではないかという議論もあるが、花期がサンデレーは春咲き(3月〜4月)、デアレイは夏咲き(6月〜8月)であることから、やはり、酷暑の中でこのような爽やかな花を付けるのはやはりデアレイであろう。
自生地は熱帯の低地であり、高い温度と高湿度を好む。栽培も同様で、通年、高めの温度と明るい環境で管理し、年間通じて水やりをする必要がある。ノビル系のデンドロビウムに花芽を付けるために晩秋に行う、いわゆる「デンドロ虐め(水を切り低温に当てる)」は絶対にやってはいけない。ただし、デンドロビウムに共通することであるが、根が常時濡れている環境を嫌い水切れの悪いコンポストを使うと根が腐るので、ミズゴケの場合は小さめの鉢に硬めに植えて栽培するとよい。
なお、同じフィリピン産のフォルモサエ亜属のデンドロビウムであるsanderaeとschuetzeiは、標高1000m以上の高地産で雲霧林に生育する種であることから朝晩の温度差が大きい環境を好み、我が国の都会の暑さをひどく嫌う傾向がある。したがって、deareiと同じ環境でこれらの種を栽培すると枯死してしまうので注意が必要である。
栽培・撮影・記:三宅八郎
参考文献:Native Philippine Orchid
Dendrobium an introduction to the species in Cultivation
Dendrobium and its Relatives