カトレヤ・ラビアタは、1818年、William Swainson によって、ブラジルのリオデジャネイロ北部のオルガン山脈で初めて採取され、1821年、Lindleyによって分類・命名された。
この植物が、他の植物を搬送するための梱包材料として英国に送られ、William Cattleyが栽培・開花させたことによって世に知られるようになったことは、洋蘭栽培に関するテキストによく出てくるエピソードとなっている。
tipo "Goliath(ゴライアス)"
このようにして発見・分類されたランが、William Cattleyに因んで「Cattleya属」として分類され、その後のカトレヤ属の種分類の出発点となったことから考えれば、カトレヤ・ラビアタはカトレヤの元祖、そして洋蘭栽培の原点であると認識されても不思議はない。しかし、このような位置づけにありながら、当初の記録以後、この植物がオルガン山脈では見つかっておらず、「オルガン山脈で発見された」というのは、かなり疑わしいとする説もある。
じっさい、カトレヤ・ラビアタが自生状態で再発見されたのは、発見・分類から100年以上も経過した1989年、しかもオルガン山脈とは別の下記のような地域であった。
現在確認されている自生地は、ブラジル北西部・アマゾン川河口の南側に位置するParaiba,Ceara,Pernanbuco,Alagoasの各州の大西洋岸の山脈の標高500mから1000mの地帯である。
カトレヤ・ラビアタは蘭の栽培種としての歴史が長く、あまりにもポピュラーであることもあって、自生地の環境については、これまであまり紹介されたことがないが、2002年に発行されたラビアタの専門書「Cattleya
labiata autumunalis:L.C.Menezes著」に自生地の詳しい写真と環境が記載されている。
同書によれば、次の3つの環境に分かれて分布しており、それぞれに異なった個体が分布している。
1. 海岸沿いの熱帯雨林(樹上着生タイプ)
2. 海岸から離れた落葉性の灌木林(岩着生タイプ)
3. 海岸から離れた岩山でカーチンガと呼ばれる環境(岩着生タイプ)
ブラジル北部(アマゾン川の南側)には四季がなく、季節は雨期(夏)と乾期(冬)があるだけである。
雨期は18℃〜28℃(11月〜7月)、年間1500mmの降水量がある(季節は場所によって2ヶ月遅れる)。
雨期は長い期間厚い雲に覆われ、熱帯の強烈な直射日光にさらされることは少ない。
乾期は12℃〜22℃(7月〜10月)であり、日中は強烈な直射日光にさらされ、かなり乾燥した環境になる。
ただ、この地域では乾期といえども日中以外は高い湿度があり、夜間には重い霧が山地全体を包み込み、気温も下がる。
Autumunalis(オータムナリス)
この本に掲載された写真では、圧倒的に3のタイプの環境の写真が多く、灌木や草がわずかに生えている固い花崗岩の岩場に開花している様子が紹介されている。
蘭の花の女王と言われるラビアタの豪華で艶やかな花からはとても想像することができないような凄まじい環境に生育していることがわかる。
ラビアタは発見が古いこともあって花のバリエーションはきわめて豊富であり、発見・同定後、ヨーロッパにたくさんの株が輸入され、1898年には、すでに70ものバリエーションが報告されている。
当時から、セルレア、セミアルバ、コンカラー、アルバのカラーバリエーションが報告されており、1887年にはバリエーションのイラストが出版されている。
alba "Angelar(アンゲラー)"
これらのイラストの一部が、「Cattleya labiata autumunalis」に掲載されているので、興味を持たれた方は入手してご覧下さい(ポルトガル語と英語の併記)。
当時の博物学と芸術の狭間にあったボタニカルアートの世界を垣間見ることがでます。
特に、この本の35ページに掲載された1821年の分類当時の細密画にはとても興味深いものがあります。
写真によるバリエーションの紹介には、言葉は不要。
蘭友会のカトレヤフリークたちの協力により、 一足早く秋の蘭展としよう。
ごゆるりとご鑑賞あれ。
(文責:三宅八郎) |