Macradenia brassavolae
写真のマクラデニア・ブラッサボラエ(Macradenia brassavolae)は99年11月21日の蘭友会11月例会において、グロワーズ・コンテスト用苗(GC-99-11)として頒布されたものです。蘭友会ニュース11月号に掲載された解説記事には次のように解説されていました。


Macradenia brassavolae(栽培:松井紀夫)

「今回の配布苗は大変珍しい種ですので、ぜひコレクションに加えて下さい。マクラデニア属はオンシジュームの近縁属で、ノティリア属に良く似ますが、ずっと大きな花をつけます。原産国はグアテマラ、コスタリカ、パナマ、コロンビア、ベネズエラで草丈が10〜15cmの小型種。花径2cm位の花を20〜30輪密に、リンコスティリスのように付けて下垂し、約10cmの花房になります。花色は明るい小豆色で、秋(11月頃)に開花します。栽培はオンシジュームに準じます。冬は50%、夏80%位の遮光をして、風通しの良い場所で栽培すると良いでしょう。冬季の最低温度は13℃位と思われます。」

 この株は配布の10ヶ月後の2000年9月25日に初花が開花。昨年は12月17日に開花し、今年は11月18日に開花しました。その後、例会で開花株を見た蘭友から「この花はMacradenia maltiflora ではないか」という指摘があったので、数冊の文献を調べたところ「マルティフロラはブラジルに分布する種で、花の形は中米から南米北部に分布するブラサボラエきわめてよく似ており、ブラッサボラエとはリップの形状がわずかに違うだけである」との記載が見つかりました(記載文献:The Manual of Cultivated Orchids Species)。


議論の的となったブラサボラエのリップの形状
(このとがった先の長さと太さの差が種別の判定基準)

開花株がどちらの種であるか、厳密な判定は指標的な両方の株を同時に開花させて比較することになりますが、リップのほんの少しの形状変化を比較するとなると、そのときの株のコンディションや花の付き具合によっても比較が難しくなります。したがって、ここでは配布時の説明どおり、私の開花株はbrassavolaeであるとしておきたいと思います。


花の拡大図

 Macradenia属は12種ほどがフロリダ、西インド諸島、メキシコからブラジル、ボリビアにかけて分布している小型の着生蘭です。属名はギリシャ語のmakros(=long長い)とaden(=gland腺)からなり、葯の長い付属物に言及している。Macradenia属は1822年にRobert Brownによって設立された。模式種はMacradenia lutescensである。lutescensについては、オンシジウムの専門図鑑である「The pictorial encyclopedia of oncidium」の156ページにとても美しい水彩画が掲載されている。




Macradenia lutescens (The pictorial encyclopedia of oncidiumより)  Macradenia brassavolaeはメキシコからコロンビア、ベネズエラにかけて分布する。グアテマラで採取された株に基づいて1852年にH.G.Reichenbachによって始めて記載された。42年後の1894年RolfeがCaucaで採取された株を基にSerrastylis modestaとして記載したが、後に彼自身がこれをMacradenia属に移した。
マクラデニアは、我が国ではあまりなじみのない属ですが、発見が古い種であるせいか中南米のランの専門書にはよく記載されています。「Native Orchids of Belize」には、本種に関して「ガテマラ国境に近い山地の雲霧林の樹木に着生する種であり、現地では9月〜11月に開花する」と記載されています。また、他の文献によれば、花に香りはなく、いくつかのカラーバリエーションがあるとされており、「Native Colombian Orchids」の262ページには、アルバ、緑色、茶のまだら、3つのバリエーションの写真が掲載されています。

 上記蘭友会ニュースの解説では、花序の長さが約10cmとなっていますが、写真の株の花序は約30cmで、最初の花がついているところから、最先端の花まで28cmあります。株が大きくなって、これだけの長さの花序が数本下垂すると、見ごたえのあるものになるでしょう。手元には模式種のMacradenia lutescensもあるのですが、こちらは輸入直後の株であったため、生育が不十分で、入手後2年を経ているのですが、開花はしていません。何時か大株になったMacradenia brassavolaeと一緒にご紹介できればと思っています。


Macradenia brassavolae・淡色(新宿御苑蘭展展示株)
(文責 松井紀夫)

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