Cattleya walkeriana
(セラードのプリンセス)
カトレヤ・ワルケリアナは、花のカラーバリエーションが豊富であり、株が小さいわりに花が大きく、成長サイクルを理解してしまうと育てやすいので、我が国にはコレクターが多く、ワルケリアナと近縁種のノビリオールを専門に扱う蘭園もある。平成12年には、日本ワルケリアナ協会( ACWJ)が発足したが、単一の種(カトレヤ・ノビリオールを含む)をベースにしたクラブはきわめて希な存在であり、それだけこの種に対して思い入れのある人が多いということであろう。ワルケリアナはブラジルでも「セラードのプリンセス」と呼ばれ、栽培マニアが多く、自生地最寄りの都市・ベロオリゾンテ市にはACW(ワルケリアナ協会)があり、種の研究・保存、自生地の保護のために活動している。

 ワルケリアナは、1839年〜40年、M.Gardnerがブラジル中央高原で行った探検調査の際に、ミナスジェライス州のサン・フランシスコ川流域で発見された。発見された株は、サン・フランシスコ川の洪水で形成されたクリークに沿った樹林の木の枝に着生していた言われている。種名は、彼の助手で発見者のEdward Walkerにちなんで、Cattleya walkeriana と命名された。



Cattleya walkeriana ’Miyata’

 自生地であるミナスジェライス州は、リオデジャネイロと首都のブラジリアの間に広がる高原地帯であり、南緯10度〜20度、標高1000m、花崗岩の盾状地で土壌が薄く、灌木林と草原や露岩地が混在するサバンナのような環境の地域である。ブラジルではこのような環境の植物帯を「セラード」と呼んでおり、通常、我々がランの自生環境として思い浮かべる熱帯雨林とはおよそかけ離れた環境である。



 自生地は南回帰線の北側に位置しているので熱帯域であるが、標高の高い高原地帯であることや海岸から離れた内陸に位置していることから、この地域には雨期と乾期からなる明瞭な季節がある。雨期と乾期の差はきわめて極端であり、半年に及ぶ乾期にはほとんど雨が降らない。一方、雨期には年間降水量のほぼ全量、1000〜2000mmの雨が降ってしまう。

 雨期 :10月〜3月(夏・秋、12月〜2月に集中して激しい雨が降るが、それ以外は穏やかに降る)
     気温は30度以上になるが、高原であるために夜間は風通しが良く20度ぐらいまで下がる。
 乾期 :4月〜9月(冬・春、ほとんど雨が降らないが、朝晩、霧の深い日が多い)
     4月から気温が低下しはじめ、5月〜7月は最高気温20度、夜間は10度以下の気温になる。


 わかりやすくするために日本の四季に当てはめてみると、春:8月〜10月、夏:11月〜 2月、秋:3月〜4月、冬:5月〜7月となり、我が国とは四季が逆になっている。現地でのワルケリアナの開花期は乾期の入り口である4月末から5月になるが、この時期が秋の終わりから初冬に該当し、我が国では11月下旬から12月に相当するのである。




Cattleya walkeriana semi-alba 'Puanani'

 ワルケリアナは、セラードの中に点在する灌木林の樹木や岩場に着生して生育している。周囲の環境が乾燥しているので、水を嫌うという先入観で育てると枯らせてしまう。上記の環境条件をよく考えてみると、雨期の生育期は水が豊富にあり、乾期にあっても「朝霧」によって水分がもたらされており、むしろ「水を好む」と理解した方が正しい。しかし、乾期の日中の環境はひどく乾燥した環境にあるので、日中は植物体全体がよく乾く。したがって、栽培環境では、コルクに付けたり、ヘゴ屑や大粒のバークをコンポストにしたりして栽培されることが多い。




セミアルバの名花:マナ・レイ・ピコテ(栽培:オーキッドレイ)

 これまで写真で見てきたように、花は美形であり、冬の蘭展では多くのバリエーションと名花が集まる。ワルケリアナの花を評価する時に「天使のしずく」という言葉をよく聞く。これは、フラットに開花したペタルが中央でわずかに重なり合い(カトレヤの評価ではオーバーラップという)、重なった部分の下にテアドロップ型の隙間が出来る。これを「天使のしずく」と呼んでおり、いわゆる名花の証となっているのである。上のマナ・レイ・ピコテの右側の花の中央に見られる部分がそれである。下の写真は、きわめて野性味の強い花型のセミアルバであるが、もちろん、このような姿の花にそれは形成されない。



Cattleya walkeriana semi-alba H&R     Cattleya walkeriana coerulea ’Nomura'

 下の写真こそ「セラードのプリンセス」と呼ぶにふさわしい名花・フェッチ・セィ ラであるが、この花の中央・蘂柱の付け根の上に見られるテアドロップ型の部分が 「天使の雫」である。このように、左右対称かつ平開したペタルが中央でわずかに重 なりあって形成される小さな隙間がワルケリアナの名花の証となっているのである。

C.walkeriana tipo Feiticeira
栽培:AZABU NURSERY
C.walkeriana tipo Feiticeira Iwasita
栽培:AZABU NURSERY
C.walkeriana tipo Mirian Suzuki
栽培:AZABU NURSERY
雫のでる蕾
栽培:AZABU NURSERY

 また、多くのバリエーションや増殖個体から出た名花が集まると、中には純粋のワルケリアナではないと言われるような株も出てくる。近年、よく話題になるのが下の写真の「walkeriana alba 'pendentive'」であるが、バルブの形状が異なること(紡錘形でなく肩がある)、リップの形状が異なること、蘂柱が少し丸く「団子っ鼻」になる、などから「純正ワルケリアナ」ではないとして、ワルケリアナ・フリークからは「ペンちゃん」などと蔑まれている。筆者は、純血種に比べて気むずかしいところが無く育てやすく、とてもきれいな純白種であると思うのだが、蘭展や例会にもってゆくと「冷たい視線」と蔑称を浴びるので、自宅でゆっくり鑑賞するだけにしている。



Cattleya walkeriana pendentive 'Doga'

C.walkeriana alba Orchdglade
栽培:AZABU NURSERY
C.walkeriana alba Hakushuu x Tokyo No1
栽培:AZABU NURSERY
 その他のバリエーションや優秀個体については、以下の文献に美しい写真とともに解説が載っている。また、自生地の環境や生態についてお知りになりたい方には、最近刊行された「Orchids of Brazilian Central Plateau」というテキストがある。

ワルケリアナに関する文献
  日本ワルケリアナ協会会報
  趣味洋蘭・New Orchids No85、No101、No113
  蘭の王国・ブラジル大紀行

 また、会の中にも多くのワルケリアナ・コレクターがおられるので、皆さん自慢の名花の写真を以下に掲載して、締めくくりとする。

記・写真:三宅八郎

C.walkeriana v. Geoge Suzuki Extra
栽培:AZABU NURSERY
C.walkeriana v. albescens Ivon
栽培:AZABU NURSERY
C.walkeriana v. alba 'Matao Mai'
栽培:AZABU NURSERY
C.walkeriana v. coerulea' Lucia Herminia'
栽培:AZABU NURSERY
C.walkeriana tipo Faceira
栽培:AZABU NURSERY
C.walkeriana tipoJoao Sujo
栽培:AZABU NURSERY
C.walkeriana v. aquinii Gloriosa
栽培:AZABU NURSERY
C.walkeriana v. aquinii Yuriko
栽培:AZABU NURSERY
C.walkeriana v.aquinii 'Myoukou'
栽培:ワルケリアナ協会 小森 誠
C.walkeriana v. aquinii 'Azurita'
栽培:AZABU NURSERY
C.walkeriana tipo 'Adonis'
栽培・遠藤奈々子
C.walkeriana tipo 'Nao'
栽培・遠藤奈々子
C.walkeriana tipo ナトラル
栽培・遠藤奈々子
C.walkeriana tipo 'Jungle Queen'
栽培・遠藤奈々子
C.walkeriana tipo 'Ronald'
栽培・遠藤奈々子
C. walkeriana ‘Fetti’ x ‘Ley 112’
栽培・ 高橋洋三
C.walkeriana v. coerulea 'Sun Gabriel'
栽培・遠藤奈々子
C.walkeriana v. coerulea'Aulus'
栽培・遠藤奈々子
C.walkeriana v. s/a 'Sancha'
栽培・遠藤奈々子
C.walkeriana v. s/a 'Robert’
栽培・遠藤奈々子
C.walkeriana v. s/a 'Puanuni'
栽培・遠藤奈々子
C.walkeriana 'Laina'× 'Tokyo No1'× self
栽培・遠藤奈々子
                                           

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