Japan Amateurs Orchids Society

2021年6月原種紹介

Paphiopedilum bellatulum (Rchb.f.) Stein, Orchid.-Buch: 456 (1892).

(Rchb.f.) Stein, Orchid.-Buch: 456 (1892).

標準の花色(開花後1週間)

(Rchb.f.) Stein, Orchid.-Buch: 456 (1892).

ロゼウム(fma. roseum、開花直後)

 ブラキペタルム亜属(Brachypetalum)に分類される小型の地生蘭で、1892年にシュタインによって報告されました。種名の「bellatul」はラテン語で「甘い」という意味ですが、何に由来するのかは良く分かりません。
 原産地はインド、ミャンマー、タイ、中国雲南省などで、標高300~1600m程度の石灰岩地帯の木陰に広く分布しています。ミャンマーでは、丘の上の苔むした岩の割れ目、低木や草の茂みの陰など、明るくて風通しの良い場所に生えているようです。
 葉は幅3~6cm、長さ10~20cm、先端の丸い細長い楕円形で、暗緑色~明緑色地に灰緑色の細かい蛇皮模様を表します。4~6枚の葉を互生し、春~初夏に中心から5cmほどの花茎を出して先端に1花をつけます。花の重みで花茎は垂れてしまい直立しないので、支柱を添えた方が良いでしょう。花径は4~8cm程度。ドーサルセパルとペタルは円形~卵円形で、ペタルが特に大きく、抱え咲きとなって平開しません。花色は白~淡黄色地に暗紫褐色の大小の斑点を散らします。地色は、日数が経つにつれて白っぽくなり、斑点は濁りが取れて澄んだ色彩になります。斑点の数、大きさ、色の濃淡は個体差が大きく、咲く年によっても変化します。中には白地に赤点のセミアルブム(fma. semi-album)、白地にピンク色の点のロゼウム(fma. roseum)、無点のアルブム(fma. album)なども知られています。ロゼウムは、セミアルブムと呼ばれることも多いのですが、セミアルブムとは色調が異なります。ロゼウムとして、明確に区別して呼ぶ方が良いように思います。
 栽培温度は中温性で、冬季の最低気温は10℃以下にならないよう、また、夏季の最高気温は40℃を超えないようにします。直射日光の当たらない明るい日陰で風通しの良いところを好み、光量的には室内の明るい窓際(2000~3000ルクス程度)でも問題はありません。
 植え込み材料は、軽石を主体としたミックスコンポストに蛎殻やサンゴ砂などの石灰質の素材を5~25%程度混ぜたものを用います。石灰質を混ぜる代わりに、鉢の表面に苦土石灰の顆粒を置く方法でも構いません。鉢の中が酸性に傾くことを嫌うので水苔植えは避けた方が無難で、バークなどの有機質を含む植え込み材料の場合は2~3年に1度程度の間隔で植え替えをします。なお、ブラキペタルムの仲間は、葉の付け根と根の生え際の境目あたりの茎が極端に細くなっていて、非常に折れやすい場合があります。慣れないうちは特に慎重に植え替えを行うことをお勧めします。
 水やりは、鉢の中の不要分を洗い流す気持ちでたっぷり与えますが、夏場は株を冷やす目的もあるので毎日夕方に葉水を打ちます。比較的乾燥に強く、夏以外の季節は週に1~2回程度で十分です。施肥は、気温の高い夏季や寒い冬季を避け、春と秋に所定の濃度の2~4倍に薄めた液肥を、潅水のタイミングで水の代わりに与えます。
 このほか、ブラキペタルムの仲間は、根が傷んだり株が弱ると軟腐病と通称される病気が出て、短期間で枯れてしまうことがあります。葉先から茶色に変色してきた場合は大きめに切除して切り口に殺菌剤を塗布すればよいのですが、付け根の方から変色が始まった場合には切除のしようがなく、株の中心部分が侵されて助からないことが多いようです。予防を兼ねて1~2カ月に1回程度、殺菌剤を散布しておくと安心です。

栽培・写真・文:古城鶴也

参考
http://wcsp.science.kew.org/namedetail.do?name_id=147004
http://www.orchidspecies.com/paphbellatulum.htm
http://equator.web.fc2.com/myanmar-pyinoolwin.htm
https://travaldo.blogspot.com/2018/05/paphiopedilum-bellatulum-care-and-culture.html
https://orchidsaustralia.com.au/index.php/Paph-bellatulum

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