今回は少し地味ですが、日本の野生らん同士の交配をご紹介しましょう。ルイノプシス・フルセイ(Luinopsis Furusei)は、ボウラン(棒蘭 Luisia teres)とナゴラン(名護蘭 Phalaenopsis japonica)の交配で、1965年に申請者マエダ、作出者フルセとして登録されました。
種名は、「フルセの」という意味で、作出者にちなんだものでしょう。この人は、日本の野生ランの交配を研究し、一説では長崎県の医師といわれる、古瀬光ではないでしょうか。加古舜治編著「図解 ランのバイオ技術 ミクロ繁殖・実生・交配育種」(誠文堂新光社 1988年)では、フウランやナゴラン、ボウランなどの属間交配について詳しく解説していますから、多分、同じ人でしょう。
本種には別名があります。ナゴランは昔、エリデス属(Aerides japonica)とされていたので、エリデス・ジャポニカ x ルイシア・テレスという登録があるのです。こちらは、ルイセリデス・リウキウエンシス(Luisaerides liukiuensis)といい、自然交雑種の扱いです。和名はリュウキュウボウラン。本来は自然交雑種の名前で呼ぶ方が適切なのかもしれませんが、ナゴランはファレノプシス属になってしまったので、ルイノプシス属の名前を使うしかありません。
もう一方のルイサンダ・ラムリル1975(Luisanda RumRill 1975)は、ボウランとフウラン(風蘭 Vanda falcata)の交配で1975年にJ・ラムリルによって登録されました。ルイサンダ・ラムリルには、1973年、1974年、1975年、1977年の各年に登録された4つの同名異種があり、1974年に登録されたもの以外は、名前の後に登録年を付けて区別しています。
1973年登録のルイサンダ・ラムリルの胚珠親バンダ・セルレッセンス(Vanda coerulescens)は、登録時もバンダ属でした。1974年登録の胚珠親バンダ・ピーチス(Vanda Peaches)は、アスコフィネティア属(Ascofinetia)。1975年登録の胚珠親フウランは、ネオフィネティア属(Neofinetia)。1977年登録の胚珠親バンダ・プレミア(Vanda Premier)は、バンドフィネティア属(Vandofinetia)でした。つまり、登録時にはそれぞれ別の属だったのです。しかし、アスコセントラム属(Ascocentrum)とネオフィネティア属がバンダ属に変更された結果、これらはすべてルイサンダ属になってしまいました。分類が変わるとややこしいことになりますね。
難しい話が長くなってしまいました。交配親につて簡単に紹介しましょう。
ボウランは、紀伊半島から沖縄、台湾、中国南部にかけて分布する着生ランで、長さ10cm、太さ5mm程度の棒状の葉を互生します。初夏に葉腋からごく短い花茎を生じ、数輪をつます。花弁は10~15mm程度の長楕円形、明るい緑黄色地に紫色の斑点を散らし、内側に抱え込んで平開しません。花には、樹液や果実が発酵したような、独特の香りがあります。
ナゴランは、伊豆半島から沖縄、朝鮮半島にかけて分布する着生蘭で、長さ5~10cm、幅2~3cmほどの長楕円形の葉を5~7枚程度互生します。初夏に葉腋から花茎を横に伸ばし、香りのよい花を数輪つけます。花弁は15~20mm程度の長楕円形、乳白色で基部に紫褐色の細い横線が数条入ります。花は平開しません。
フウランは、本州中部から沖縄、朝鮮半島、中国南部にかけて分布する着生蘭で、長さ7cm、幅1cm、厚さ5mm程度の剣状の葉を10枚程度互生します。初夏に葉腋から花茎を斜上させ、花を数輪つけます。花弁は15mm程度で細長く白色で、まれに桃色または黄色を帯び、外側に反り返ります。またリップの付け根から長い管状の距を下垂させます。花は夕方に強く香ります。
さて、ボウランとナゴランを交配したルイノプシス・フルセイは、花にも草姿にもナゴランの特徴が見当たらず、ボウランといってもわからないほどです。一方、ボウランとフウランと交配したルイサンダ・ラムリルの方は、草姿はボウランそのままですが、花の色にはフウランの特徴が表れており、平開するのでボウランよりも花らしく見えます。
育て方は、フウランやナゴランなどと同じで、風通しの良い明るい日陰で育てます。春や秋は直射日光でも平気ですが、夏場は少しくたびれた様子になるので、50%程度の遮光をした方が良いようです。水は、1~2日に1回、株全体にかけますが、1週間くらい忘れても枯れることはありません。肥料は、通常の2倍程度に薄めた液肥を、月に1~2回潅水の代わりに与えます。
冬場は室内に取り込んでいますが、交配親から推測すると、耐寒性はありそうです。気温が氷点下になったり、直接霜が当たることがなければ、戸外でも冬越しできるかもしれません。
写真・文:古城鶴也