Japan Amateurs Orchids Society

こんな花が咲きました

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Serapias olbia Verg. 1908


ペロン!
 この花を見ていると、どうしてもふざけているようにしか見えません。誰かがいたずらで舌を出しているかのようなそんな見た目の花です。この花びらが舌のように見えるのは別に私だけでなく、英語ではTongue orchid(舌の蘭)と呼ばれていることからも多くの人々にとってそう見えるのでしょう。しかしながら当然、当のSerapias olbiaはふざけているわけでも何でもなく、大真面目に開花しているわけです。このような個性的な花を見るとラン科植物の多様性そして生物進化の妙を感じずにはいられませんし、ラン科植物を観察したり栽培したりする楽しみがまた増すのです。
 種名となっているolbiaは現在のフランス南部地中海沿岸にある街イエール(Hyères)周辺の昔の呼び方で、実際に現在でもフランスでは同種をSérapias d’Hyères(イエールのセラピアス)と呼ぶこともあるようです。固有名があるということはそれなりに親しまれているありふれた花なのかもしれません。
 フランスに限らずスペイン、イタリア、ギリシアやトルコといった地中海沿岸には、乾燥する夏は塊根のまま過ごし、秋になって雨が降るようになってから芽を出し、冬場にゆっくり育ち春に花をつけるラン科植物が分布しており、今回ご紹介するSerapias olbiaもそうしたラン科植物の一種です。同様の生活環を持つのはセラピアス以外に、花が美しいオルキス、山野草のような可憐な花をアナカンプティス、蜂に擬態していることで有名なオフリスなどがあり、これらの分布地は重なっていることもあります。またセラピアスはアナカンプティスと近縁のようで、自然下でも属間交配種が見られますし、欧州の愛好家は人工的にも交配種を作成しているようです。
 栽培方法は上記のオルキスなどとも共通ですが、秋に塊根を植え込み芽が出てきたら水を多めに与え冬が本格的になる前にできるだけ大きく育てます。地生蘭ゆえ多肥を好むと思われ、芽が出た後から発酵済み油かすを、月に一度与えます。冬場は成長が緩慢になりますが、乾燥はしないようにこまめに水を与え、春を待ちます。開花時期ですが、アナカンプティスやオフリスの花芽が3月中旬から動き出すのに比べるとセラピアスは4月にならないと花芽が見えません。開花は少し遅いですが、ゴールデンウイークくらいまでは花を楽しめます。
 私はセラピアスを栽培し始めてまだ数年ですが、まだわからないことはいっぱいあります。ただ、温室は不要でむしろ冬の寒さにはしっかり当てた方が良さそうなので、関東地方であればちょっとした工夫で充分に開花させることができます。これからも栽培を重ね、関東地方の屋外で誰でもが栽培しこの個性的な花を楽しめるように工夫を重ねていきたいです。

記 浜中 大輔

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