今回はシプリペディウム・ベルント(Cypripedium Bernd)を取り上げました。2021年にも取り上げましたが、今回の花は前回とずいぶん印象が異なるので再び紹介することにしました。
ベルントは、Cyp. macranthos x Cyp. segawae という交配で、シプリペディウムの改良で知られるフロッシュ(Werner Frosch)によって2001年に登録されました。
花粉親のCyp. macranthosはアツモリソウ(敦盛草)で、桃色~濃桃色の花です。胚珠親のCyp. segawaeはタイワンキバナアツモリソウ(台湾黄花敦盛草)で、日本のキバナノアツモリソウ(Cypripedium yatabeanum)とは異なり、リップが巾着形で黄色の花をつけます。上の写真の株は、セパルとペタルはアップルグリーン、リップは白地にピンクの絣という色合いですが、前回ご紹介したのはレモンイエローの花でした(写真右下)。この交配は、花粉親にタイワンキバナアツモリソウ、胚珠親にアツモリソウの白花(fma. album)を用いたとのことですが、花色のバリエーションはいろいろあるようです。
草丈は20cmほど。長さ5~8cm、幅3~5cmで先のとがった卵形の葉を3~4枚互生させ、頂点に花径4~5cmほどのアツモリソウによく似た形の花を1輪つけます。香りはありません。タイワンキバナアツモリソウの自生地は、台湾花蓮県の標高1,000~1,500m程度の地域で、急峻な林下に自生するといわれています。他方、アツモリソウは、ロシアから中国、日本にかけて広く分布しますが、日本では標高1,000~2,000m程度の湿潤な高原に自生しています。
本種は、人工栽培種なので野生種よりは扱いやすいと思われますが、寒さには強いものの、暑さにはあまり強くないようです。
潅水はやや多めを好み、特に成長期には水を切らさない方が良いようです。ただし、夏場は暑いので日没後に潅水した方が良いでしょう。施肥は成長期には切らさないようにし、春~初夏の間、置き肥をするとともに標準の4倍程度に薄めた液肥を潅水代わりに与えます。
地上部は比較的暑さに強く、フロッシュ蘭園(Frosch Garden Orchid)では露地植え栽培を前提として夏季は33℃以下が望ましいものの、まれに短時間であれば40℃でも耐えるとしています。一方、冬季は2~3カ月の間5℃以下になる方が望ましく、十分な積雪の下であれば―25℃になっても平気だそうです。しかし、地生植物の根は、元々温度変化の少ない地中に張っているものなので、耐暑性、耐寒性共にあまり強くはありません。鉢植え栽培の場合は、鉢の中の温度が気温と同じになってしまうので、影響が大きくなります。ちなみに、2021年にご紹介した株は、夏の練馬の暑さは厳しすぎたようで、最初の2年は開花しましたが徐々に衰弱し、消えてしまいました。
<栽培者のコメント>
この株は、2020年11月に北軽ガーデンさんの通販で購入しました。21年3月には初花で3輪ほどつきました。その年の夏越しですが、都心の屋上ですので生きてるのか死んでるのかわからない状態でした。22年の夏からは毎年、軽井沢に山上げすることができました。22年、23年はなんとか新芽が出るものの開花には至らず。24年にやっと開花。25年の今年も1輪ですが、花を見ることができました。
4月の花後は、50%の風通しの良い戸外で育てます。7月上旬から9月下旬は軽井沢に山上げ。東京に戻った時には地上部はありませんので殆ど潅水はしません。
年が明けて新芽が見え始めたら徐々に株もとに水やり開始。少しずつ新芽の様子を見ながら液肥を葉面散布。その後、置き肥も与えると良いと思います。
植替えは、花後の6月か新芽が出る前の3月頃が良いそうです。
栽培:唐木善孝 記・撮影:古城鶴也