メキシコから中南米に分布する着生ランで、現在55種が認められています。卵型をしたバルブは大きな一枚の葉を有し、葉は比較的薄く葉脈が付け根から先端に数本走っています。花茎は下に垂れて伸び、1輪から10輪近い花芽を付けます。
それぞれの種が固有の香りを出し、その香りを求めて仲介蜂(シタバチの雄)がやってきます。 蜂により好む香りが異なるため、一つの種から別の種に同じ蜂が飛んでゆくのは稀ですから、種間の交配は起こりにくいと言われています。
Stanhopea tigrinaの様に花径が20cmに及ぶ大輪もあり、大変見応えのあるStanhopeaですが、残念な点は花の寿命が極めて短い(2~3日)ことです。
Stanopea dodsoniana (スタンホペア ドドソニアナ)Salazar & Soto Arenas 2001
メキシコ固有種。ベラクルス、オアハカ、チアパス州の標高50~950mの熱帯雨林に自生しています。花は夏に開花します。
S.dodosonianaは比較的新しく2001年にメキシコ国立自治大学のラン研究者Gerardo Salazarと Miguel Soto Arenasにより確認されました。以前はS.oculataの亜種と考えられていました。S.oculataとの違いはリップの下唇、中唇の角度がより鋭角だと言われています。
Stanhopea hernandezii(スタンホペア エルナンデジイ) (Kunth) Schltr. 1918
メキシコ固有種。メキシコの中央内陸部のモレロス、ミチョアカン、ゲレロ、メキシコ州の標高1,700~2,250mに自生します。花径は約20cmでペタル、セパルは薄黄色で赤茶色の斑点を有します。花茎は新しく成長したバルブの根元から出て下方に垂れて花芽となります。花は春から夏にかけて開花します。栽培には目の粗い籠などが適します。メキシコのStanhopea属の中で最も古い時期に学名として命名されたS.hernandeziiはメキシコの典型的、かつ古典的なStanhopeaと言うことができると思います。
種名の由来はスペイン語名Hernandez(エルナンデス)からきています。16世紀後半にスペイン王フェリーペ2世から調査のためにメキシコに派遣された植物学者Francisco Hernandezが他の動植物と共にこのランを発見し挿絵を付して残しました。その原稿が、17世紀になって「メキシコの動物、植物、鉱物の富」としてラテン語で出版されました。その中でこのStanhopeaは”Coatzonte Coxochitl”(ナワトル語、スペイン征服以前から先住民族 ―インデイヘナーの間で話されていた数十に上る言語の中で、現在のメキシコ市を中心とした広い地域で使われ、アステカ人もナワトル語を話していました)と記されていますので、スペイン人の征服以前から現地人の間で広く知られていたものと思われます。その後、1815年にKunthがAngloa hernandeziiとして発表して、1918年にSchlenchterがStanhopea hernandeziiと分類し直しました。
Stanhopea intermedeia(スタンホペア インターメディア) Klinge 1898
メキシコ固有種。ナヤリ、ハリスコ、サンルイスポトシ、ミチョアカン、ゲレロ、オアハカ州の標高900~1,700mの森林に着生します。夏から秋にかけて開花します。全体に薄黄色の色彩帯びて大変優雅な花です。開花した花はバニラに似た香りをだします。
Stanhopea属の花はいずれも異なった香りを発しますから、飛んでくる花粉の仲介者としてのハチも異なります。この為、種間の交配は少ないと言われています。
Stanhopea maculosa(スタンホペア マクロサ) Knowles & Westcott 1839
メキシコ固有種。ソノラ、ナヤリ、ハリスコ、コリマ州の太平洋側、標高1,000~1,800mの山林スロープのオーク林に自生しています。セパル、ペタルは薄い黄色味をしていて茶褐色の斑点を有します。
メキシコのStanhopeaの中では比較的数多く繁殖していて、現地人の間では”Torito”(牛)と呼ばれて親しまれています。
Stanhopea martiana(スタンホペア マルティアナ) Bateman ex Lindley 1940
メキシコ固有種。ナヤリ、ハリスコ、ゲレロ、オアハカ州の標高1,200~2,100mの山林に自生しています。花は全体が白地で赤褐色の斑点を有します。
メキシコはもとより、中南米に存在するStanhopeaの中でも白地の花を持つStanhopeaは数少なく、他には南米に自生するStanhopea grandifloraがあるぐらいです。その奇妙で艶やか花姿は人々に強い印象を与え、多くの画家に描かれています。
Stanhopea oculata(スタンホペア オクラタ) Lindl. 1832
メキシコから中南米にかけて広く分布して、標高1,000~3,000mの森林に自生します。 花は夏に開花してバニラのような香りがします。
Stanhopea radiosa(スタンホペア ラディオサ) Lemaire 1859
メキシコ固有種。ナヤリ、ハリスコ、オアハカ州の太平洋側の標高200~1,500mの岩場やオーク林に自生する。春から夏にかけて開花します。
S.saccataと見た目は同じ花の様に見えますが、S. radiosaはリップの嚢状の下唇(オレンジ色の袋状)が小さく、上唇の上側に歯形があります。また、S.radiosaがメキシコの中西部に分布しているのに対し、S.saccataはメキシコの東南部のグアテマラと接したチアパス州だけに自生していて、そこからグアテマラ、エルサルバドル等中米に分布しています。
Stanhopea ruckeri(スタンホペア ルケリ) Lindl. 1843
メキシコからニカラグアにかけた中米諸国に分布します。標高800~1,400mの山林に自生します。開花は秋です。S.ruckeriにはStanhopea独特の目のような斑点がリップの付け根にあります。S.radiosaやS.saccataにはこの斑点は見られません。
Stanhopea saccata(スタンホペア サッカタ) Bateman 1839
メキシコから中米諸国に分布します。自生地は標高300~1,500mの山林です。
花は夏に開花し、シナモンの香りを出します。
Stanhopea tigrina(スタンホペア ティグリナ) Bateman ex Lindl. 1838
メキシコ固有種。主としてメキシコの東部ベラクルス州の標高1,800mまでの湿気のある森林に着生しています。S. tigrinaの中にはいろいろな色合いのものがあり、ベージュ地に赤褐色の斑紋があるもの、クリーム色に赤褐色、又は、チョコレート色の濃い斑紋を有するものまで多彩です。クリーム色に濃い赤褐色(チョコレート色)のものはS. nigroviolaceaと呼ばれ、1996年にAOSでFCC賞を受賞したことは有名です(Stanhopea tigrina var. Nigroviolacea ‘predator’)。花茎は下向きに垂れ、通常1花茎から2輪の大輪花を咲かせます。
他のStanhopeaと同様香りがありますが、S. tigrinaの香りは強く複雑で余り良い香りとは言えません。花期は夏から秋にかけてです。現地のインディヘナの間ではナワトル語で「蛇の頭」を意味する“Coatzotecomaxochitle”と呼ばれ親しまれています。メキシコのStanhopeaの代表格と言えると思います。
Stanhopea whittenii(スタンホペア ウイット二ィ) Soto Arena, Salazar & Gerlach 2002
メキシコ、グアテマラ、ベリーゼの標高300~1,500mに自生し、夏に開花します。
S.oculataと類似していますが、S.oculataに比べリップの下唇が太く、リップの付け根のオレンジ色が濃いです。また、S.oculataより低い高度に自生します。
不許複製・無断転載禁止