Japan Amateurs Orchids Society

2021年10月原種紹介

Dendrobium hekouense Z.J.Liu & L.J.Chen, Ann. Bot. Fenn. 48: 87 (2011).

Dendrobium hekouense Z.J.Liu & L.J.Chen, Ann. Bot. Fenn. 48: 87 (2011).

 デンドロビウム・ヘコウエンセ(Dendrobium hekouense)は、デンドロビウム亜属の小型種で、2011年に登録された新しい原種です。種名は「ヘコウ(河口)産」という意味で、発見された場所にちなんだものでしょう。
 雲南省の南東部から国境をまたいだベトナム北西部の、限られた狭い地域にだけ分布しています。このあたりは、標高1000~2000m程度の石灰岩地帯で、陽当たりの良いところに生えている大きな常緑広葉樹の、樹冠部の枝の下側に着生していることが多いといわれています。
 この地域の気候は、熱帯モンスーンの影響を受け、4~9月は湿潤で毎日朝晩濃霧がかかる一方、10月~3月は乾燥気味となり、霧がかかることはないようです。年間平均気温は17.6℃、最低気温10℃、最高気温は23℃程度と、年間平均気温では関東地方と大差ありませんが、最低気温は高く、最高気温は大幅に低い数字です。

 バルブは1~2cmほどの卵型で密生します。葉は、幅5~10mm、長さ2~3cm程度の長楕円形で革質の葉をつけ、冬には落葉します。初夏にバルブの節から径2cmほどの花をつけます。花色はクリーム色地に赤紫の微細な斑点が入ります。地色は開花当初は緑色味がやや強く、日数が経つにつれて済んだ色彩になってきます。

 栽培はデンドロビウムに準じます。日照は2~3万ルクスが良いという意見があり、これに従えば、夏場には50~75%程度遮光しますが、冬場は直射でも大丈夫そうです。湿潤を好むので、水苔植えの場合、温かい季節には週に3~5回灌水をします。寒い季節には水やりを減らしますが、完全には乾かさない方が良いかもしれません。コルクなどに着生させている場合は、毎日霧吹きも行った方が良さそうです。施肥は、温かい季節に、通常の2~4倍に薄めた液肥を潅水代わりに月に1~2回与えます。栽培温度は、自生地の環境から考えると、関東以南なら無加温の室内でも越冬できそうですが、耐暑性は弱いので、冷房温室もしくは山あげ等、何らかの避暑が必要でしょう。

<栽培者から>
 2021年10月の例会は、久しぶりに千葉県市川市のある須和田農園にて行われました。当日はあいにくの冷たい雨降りとなりましたが、まずまずの集まり具合となりました。
 そんな中で行われた例会人気投票で佐藤出品のDendrobium hekouenseが小型株の1位となりました。以下思いつくままの感想です。
 この株はおよそ2年前、ある蘭園から入手した株です。外国の松の皮に付けられていて活着している良株でした。hekouenseは、中国雲南省で発見されたのが2008年、記載されたのが2011年と、新しい種です。それゆえ、株の性質や栽培方法なども確立していないのが実情のようです。
 花は、大きさNS:2.5cm×2.3cm。なんだ、小さい花ではないか!と言われそうですが、測りようもないような極めて小さな落葉したバルブにその何倍もの花を付けるのは極め付きの驚嘆すべきことではないでしょうか。
 栽培は、松の皮に着生させていますが、水遣りには特に気を遣うことにしています。暑さがピークの盛夏においては朝晩の水遣りは欠かせないことであり、場合によってはバケツに水を張りドボンとまるごと漬けこむこともあります。もともと自生地が1000m~2000mの高地なので、山あげなどは有効だと思われます。7月から9月までは、軽井沢の棚場に避暑させています。

栽培:佐藤攻 写真・文:古城鶴也

原種解説の花過去ページへ トップページへ