Japan Amateurs Orchids Society

2023年3月原種紹介

Ophrys bombyliflora Link 1800

Ophrys bombyliflora Link 1800


Ophrys bombyliflora Link 1800

 今回ご紹介するOphrys属は、ヨーロッパの南半分、アフリカの地中海沿岸、アナトリア、コーカサス地方に分布する地生蘭です、その中でもOphrys bombylifloraはイベリア半島南部、バレアレス諸島、シチリア島、イタリア半島南部、エーゲ海沿岸のギリシャやトルコといった、Ophrys属の分布地でも比較的暖かい地域に広がっています。
 地中海沿岸は、夏は晴れが続きそれなりに気温も上がり乾燥し、秋から春にかけて降雨がありますが、Ophrys bombylifloraの生活環境は乾燥する夏は地下部で塊根の状態で動きがなく、雨が降り始める秋に塊根から芽を出し、葉を広げ成長していきます。冬になり寒くなるとそれまでに出した葉がロゼット状になりながらも緩慢に成長を続けます。春になると頂点から花芽を伸ばし開花に至り、晩春になり暑くなってくると新しい塊根を作ると同時に地上部を枯らせて休眠に入ります。
 さて、この花について興味深いのは、花が蜂に擬態していることでしょうか?ラン科植物はほとんどが虫媒花で、ポリネーターを引きつけるために独特な花の模様があったり、香りを持ったりする種が多いのですが、Ophrys属は花の形そのものをポリネーターとなるマルハナバチに似せています。花をメスのマルハナバチだと勘違いしたオスが寄ってきます。もちろんしばらくするとメスではないことに気づいて離れていきますが、これを繰り返すことで花粉が拡散していきます。蜂そのものに擬態する進化を考えると、自然の妙を感じます。
 栽培については関東南部の平野部では難しくありません。9月に入ったら赤玉土小粒とバーク小粒を配合した用土に植え込み、水を与えます。10月から11月は一番良く育つ時期ですので、乾燥しないように水をあげ、発酵済み油かすなどの有機肥料を与えます。12月以降、冬場も乾燥は厳禁ですので水をこまめに与えるのと同時に上部に穴が空いた透明なプラスティックの箱をかぶせています。これにより乾燥が緩和されるのと同時に日中の気温を高くすることができます。自生地の冬の朝晩は東京並みに冷えますが、昼間は幾分暖かくなることが多いようです。そして3月にプラスティック箱を外し引き続き水を与えると3月下旬から4月にかけて花が咲きます。ゴールデンウィークの頃から水を減らし、5月末には乾いている状態にしたうえで塊根を掘り上げ、殺菌剤に漬けた乾燥させ、冷房が効いていない乾燥した状態で保存し秋の植え付けに備えます。
 Ophrys属の中には育てるのが難しく、すぐに枯れたり開花に至らない種もあります。他の複数の栽培家に相談したところ、種によって共生菌への依存度が違っていてそれが関係しているのではないかという意見を何度か聞きました。そうしたOphrys属の中でもOphrys bombylifloraは日本国内の蘭業者でも販売していることが比較的多く、また私自身も複数年に渡り栽培し花を咲かせ塊根も毎年増やしているため、Ophrys属の中では栽培に向いているのではないかと思います。

【栽培者からのコメント】
 このOphrys. bombylifloraは3年前に中藤洋蘭園さんから塊根を購入しました。今までいくつかの種類のOphrysを栽培しましたが、一番癖がなくよく育ち、花も良く咲きます。基本的に野外での栽培で冬の寒い中で頻繁に水やりをするのも大変ではありますが、少し暖かくなり花が咲くと春が来たという気分になります。日本での栽培家は少ないですが、どうすればもっと作りやすくなるかを追求し、いろんな方に栽培していただけるようにしたいです。

記:浜中大輔 栽培・コメント:浜中大輔 撮影:冨澤 實

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