日本ではリンコスティリス・セレスティス(Rhynchostylis coelestis)の名で親しまれていますが、Kew王立植物園によると2021年にリンコスティリス属からバンダ属に移されたようです。この結果、バンダ属には紫の花色にちなんだ名前の原種が、セレスティス(V. coelestis)のほかにセルレア(V. coerulea)もあればセルレッセンス(V. coerulescens)もあるという、ややこしいことになってしまいました。
当サイトでは、2001年6月にRhynchostylis coelestisのタイトルでリンコスティリス・ギガンテア(Rhynchostylis gigantea)やリンコスティリス・レトゥサ(Rhynchostylis retusa)と合わせてご紹介していますが、20年以上経過しており属名も変わっていることから改めてご紹介することにします。
左側の横長の写真は、上野氏が愛培する’ブルー・リップル(Blue Ripple)’という個体で、実生の中から選抜された紫色が特に濃い優良個体です。右側の縦長の写真は筆者が40年ほど前に撮影したもので、山採り株の中では比較的花型が丸く色も濃い、当時としては良い個体でした。しかし、ブルー・リップルの方が青みが強く濃色で、1花茎当たりの輪数もずっと多いなど、長い年月の間に格段の進歩を遂げていることが分かります。
原産地は、タイ、カンボジア、ラオスなどのインドシナ半島で、低山の比較的乾燥した落葉樹林に自生するといわれています。20cm前後の鎌形の葉を左右に互生し、草姿は小型のバンダといった風情です。夏から秋頃、葉腋から20cmほどの花茎を直立させて1~2cmの花を多数つけます。ペタルやセパルは白色で周辺部は紫色を帯び、リップは多肉質で紫色です。まれに青みの無いピンク系の花や純白の花をつける個体もあります。また、柑橘系の良い香りを強く漂わせます。
リンコスティリス属の中から本種だけがバンダ属に移された理由は良く分かりませんが、他のリンコスティリスは花茎が下垂するのに対して本種だけは直立するので、昔から少し変わったリンコという印象はありました。
栽培管理は、カトレヤなどと同じ中温性として扱い、1年中50%遮光程度の明るめの環境を好むようです。自生地では夏場は多雨で湿潤な一方、冬は雨が降らずに乾燥しているようですので、日本では扱いやすいかもしれません。
<栽培者からのコメント>
この株は、ワカヤマオーキッドから分けてもらったものです。最初はヘゴ板付けだったのですが、あまり調子が良くなかったので、4、5年前に水苔でポリ鉢へ植え替えたところ、元気を取り戻しました。栽培で特に気を付けているところはなく、他の株と一緒に管理しています。水をやる際、この鉢はまだ湿っている場合もありますが、気にせず与えています。それでも特に嫌がっている様子はありません。
写真・文:古城鶴也 栽培:上野幹雄