今月紹介するのは、アラクニス・フロス-アエリス(Arachnis flos-aeris)です。アラクニス属は、中国南部から東南アジアを経てインドまで広く分布する単茎性の着生らんで、古くはエピデンドラム属(Epidendrum)やレナンセラ属(Renanthera)、エリデス属(Aerides)とされていたものもありました。現在、Kewでは43種が受理されています。
属名はラテン語で「クモ」を意味しますが、英語では「Spider Orchids」や「Scorpion(サソリ) Orchids」と呼ばれます。一方、種名のフロスは「花」、アエリスは「空気」という意味で、英語では「Air Flower Arachnis」と呼ばれることもあるようです。
原産地はタイ、カンボジア、マレーシアからインドネシア、ボルネオ、フィリピンに至る熱帯地域で、マングローブの林や標高があまり高くない地域の川沿いなどに自生するといわれています。
草姿はバンダ属(Vanda)に似ていて、葉は長さ30cm前後の革質で、棒状の茎の左右に互生します。草丈は野生では枝分かれしながら非常に大きくなり、米国蘭協会(AOS)ではアラクニス属の中には10mを超えるものもあるとしています。これが「Air Flower」の意味するところなのかもしれません。
開花期は不定期ですが、夏から秋にかけて咲くことが多いようです。葉腋から長さ60cm~1mの花茎を斜上させ下垂させ、8cmほどの花を多数つけます。セパルとペタルは淡黄色地に赤褐色~黒褐色の斑点を表しますが、色の濃淡や斑点の大小、多い少ないは個体差が大きいようです。リップは橙色~ピンクで個体によって様々です。また、花にはじゃ香のような香りがあります。
栽培はバンダと同様で高温多湿を好み、強い日射しを好むようです。シンガポールの栽培家は70~100%の日射しが良いとしているので、日本では年中直射光で構わないでしょう。
<栽培者からのコメント>
この株は20年位まえに、松本洋ラン園から入手した株です。以来一度も開花を見ていませんでした。温室の一番奥に吊るして収納していましたが、2m以上になると置き場所の関係で半分に切って増やしていました。これと、日照不足が咲かなかった原因かもしれません。
栽培者:清水達夫 記・撮影:古城鶴也