Dendrobium a'la calte Ver.2
(Fairies in The Rainforest:熱帯林の妖精たち)
 デンドロビウムというと、太いバルブにカラフルで大きな花がスタック(日本読みではストック)のように付く、ユキダルマ、ユートピア、サクラガリ、ゴールデン・アヤなどの園芸種を思いうかべるが、デンドロビウム属には2000種を越える原種があり、形態も色も生育環境も実に多様な巨大属である。したがって、どこの洋蘭愛好会にもデンドロマニアあるいはデンドロフリークというのがいて、それぞれのコレクション対象にこだわりを持っている。
このコーナーでは、過去にデンドロビウムを
2002年2月  Dendrobium a'la calte
2003年8月  Dendrobium dearei
の2回取り上げているが、今回はジャワ、スマトラ、ボルネオなどの熱帯雨林に分布するチャーミングでファンタスティックな花が咲くデンドロビウムを取り上げてみた。題して「熱帯林の妖精たち」




Den.puberulilingue

 この白い天使ような花は「ボルネオの熱帯雨林産の花である」ということ以外、何もわからない。Orchid of SARAWAK というテキストに「サラワクとカリマンタンの1000m以下の低山に自生する」とだけある。2004年3月の例会に出品された時の観察では、長さ50cmのバルブの先端に直径たった6mmの花が1輪だけ付いていた。筆者のつたない経験と観察に基づく推察であるが、この地域のデンドロビウムは一年中成長し、バルブの長さが2m近くなり、完全に成長した状態のバルブには10個あまりの花がつく・・・・かもしれない・・・・だったらいいなぁと思うのは栽培者の脇本氏だけではないはずだ。



Den.linearifolium

 リネアルフォリウムは、ボルネオのサラワク、ジャワ、スマトラの山岳林に分布するデンドロビウムである。長径1.5cmあまりの小さな花で、ご覧のような、手塚治虫の漫画によく出てくるヒョウタンツギのようなバルブの上にヒョロヒョロと花茎が伸び、その先にパラパラとまばらに咲く。よく見ると全体に半透明で流氷の下の暗い海におよぐクリオネに似た花である。熱帯雨林の妖精というより極寒の海の妖精と言っても通用しそうである。




Den.kuhlii

 これぞ「雲霧林の妖精」という風情である。クーリィはジャワ島西部の山岳林に分布しており、葉の落ちた1mから2mにもなる細長いバルブの先に3輪から12輪ずつ固まって花がつく。花は、高さ2cm、幅8mmほどで、この美しさをゆっくり観察するには虫眼鏡か接写性能良いデジカメが必需品である。植物体は一年中成長しており、モンスーン地域(タイ、ベトナム、インド、雲南など)に生育する種のようにいわゆるデンドロいじめをやるといじけてしまうようだ。日本での開花は10月下旬、自生地では12月に開花する。




Den.mutabile

 ムタビレはチャーミングなオレンジ色のワンポイントが魅力で、個体によってはペタルやリップにピンク色の刷毛目が入ったり、花全体に外側から内側に向かってピンクのボケがはいったりするものもある。残念ながら、優良個体を選べるほどたくさんの株が輸入されているわけでもなく、比較的入手しやすいドーム蘭展の時は開花期でない。この種も、チャーミングな花のわりに植物体は猛々しく、直径5mm長さ2m以上のしなやかに垂れ下がる長いバルブが密生して株を作り、それらのバルブの先に5.6個ずつかたまって花が付く。分布地はジャワ島西部の海岸近くに広がる熱帯雨林であり、深い森の樹木やこけむした岩に着生しているという。少し離れているがバリ島にも分布する。




Den.inflatum

 デンドロビウム・インフラタムはジャワ島全般に広く分布する種であり、独立樹や露岩に着生している。この花も逆光で見ると半透明なガラス細工のように見える。ムタビレ同様、リップの黄色がチャームポイントである。植物体は、この種のものとしては小柄であり、バルブの長さは40cm前後である。通常、疎林に分布しているときはそのような状態であるが、遮光状態、特に温室で影になったようなところに吊して栽培するとやたらに長く伸びて、ムタビレ同様、猛々し株になるようである。花のサイズは長径2cm幅1.5cm、葉の落ちたバルブに2つか3つずつ咲く。




Den.fairchildii

 英語風にフェアチャイルディと読みたくなるが、ラテン語読みではフェアキルディである。ちょうど開花時期であり「今月の花」にふさわしい。この花は、ジャワ、ボルネオ、スマトラと、少し離れたフィリピンのルソン島の雲雨林の産である。花は、ご覧のように花弁の外側から内側に向かってきれいなピンクのボケが入る美形であり、これまでの花に比べてサイズも少し大きい。花の高さは3cm幅は1.5cmあまりで、2m以上に伸びた細長いバルブの先に10〜15個、かたまって開花する。少し標高の高い場所に分布しており、自然の状態では冬の間は成長止めるようであるが、栽培環境下では、高温、高湿度を保ってやると通年成長続け、2mを越えるバルブになる。葉の落ちたバルブに数回にわたって花を付けるので、バルブを大きく育てると開花期はたいへん美しい。




Den.uniflorum

これまでは、逆光の中で半透明になる花が多かったが、ユニフローラムは花弁が肉厚でどちらかというと磁気質な花である。ジャワ・スマトラ・ボルネオを中心に南西アジア全域に広く分布するが、地域によって花形に差があるようである。この花は、ジャワ産のもので、リップにあまりシワがない。下の鉄仮面あるいは鉄人28号の頭を思わせる写真は、おそらくユニフローラムの亜種であろうと思われるが、詳細はわからない。蘭友会のゲテモノフリーク、小林晃氏自慢の逸品?である。






Den.cinereum

 この、黄色い目玉ついた昆虫の顔のような花は、キネレウムという。ボルネオ・サラワク州の丘陵地の熱帯林に分布している。花は直径1cmほどで、この黄色目玉をよく見ようとすると虫眼鏡が必要になる。花に比べ植物体はごつい感じであり、直径1cm長さ40cmほどのがっちりしたバルブの先に、3,4ずつパラパラと花を付ける。この黄色の目玉がチャームポイントであるが、全体的には地味な花である。




Den.cumuratum
 クムラタムは、夏の終わりに涼しげな淡ピンクの花を付ける。蘂柱の先端の濃いピンク色がチャームポイントになっており、これが白では台無しなのである(ちなみに、拙宅の株は白鼻)。この種も、花のエレガントな装いに比べて株はけっこう無骨で、太さ1cm長さ60cm〜1mになる。ボルネオからマレー半島・ミャンマー・インドにかけて分布し、低地の熱帯雨林に自生する。一年中、高温で雨が降る環境に自生するので株は一年中成長し、栽培環境下では1.5mあまりになる。花は、長さ2cm幅1.5cmであり、葉の落ちたバルブに3輪から5輪ずつまとまって咲く。花命は比較的長く、2,3週間咲いており、花の終期にはバニラのような甘い香りを発する。


赤道直下の熱帯林に咲く妖精のようなデンドロビウムをまとめて紹介してみましたが、いかがでしょうか? ちょっと栽培してみたくなりませんか? 株は一年中成長するのでけっこう大きくなるくせに、花は2cm前後と小さく、香りのある花も少ない。栽培する身になってみれば、場所は取るし見栄えはしないし、おまけに花命が短いものが多い・・・。それでも、こうやってまとめて見ると、個性的でありとてもチャーミングな妖精たちである。惜しむらくは、なかなか株を入手しにくく、2月に開催されるドーム蘭展の海外ブース(マレーシア系がお勧め)で購入するのが一番よろしい。蘭園では、古くからデンドロビウムの個性的な株をコレクションしている白石洋蘭園に相談するのもいいと思います。なお、ゆっくり鑑賞するには、再三、記事の中で言っているように、3倍ぐらいのルーペと接写に強いデジカメが必需品です。
(写真・記:三宅八郎)
参考文献:Orchids of SARAWAK
     Orchids 0f JAVA
     Orchids of SMATRA
     Dendrobium and Its Relatives 

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